川本三郎「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

レビュー

14
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 東京の編集者 山高登さんに話を聞く
  • 永遠の道は曲りくねる
  • 子規の音
  • 歴史の証人 ホテル・リッツ
  • 芥川追想

書籍情報:版元ドットコム

川本三郎「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 今年九十一歳になる山高登さんは懐かしい昭和の東京を描く木版画家。

 氏はもともと新潮社の編集者だった。『東京の編集者』は氏が編集者時代の思い出を語る。

 ベストセラー作りには関心がない。初版がせいぜい三千部の地味な作家の本を手がける。尾崎一雄、上林暁、島村利正ら。昭和三十年代、これらの純文学作家の本が少部数とはいえきちんと作られていたのだからいい時代だった。

 これとは対照的に『永遠の道は曲りくねる』は沖縄を舞台に大国が支配する現代社会に異を唱える。

 世界放浪の旅を終え沖縄に移り住んだ主人公をはじめ、精神病の治療に打ち込む医師、霊力を持つ老婆、「島ハーフ」の若者、そして世界各地から集まった先住民のグランマザーたち。

 宮内勝典は彼らマイノリティの目を通し、世界を創り変えようとしている。

子規の音』は、病弱なイメージの強い正岡子規が意外や、日本各地を実によく旅していたことを明らかにしてゆく評論。

「調べて書く」丁寧な仕事で定評のある森まゆみならではで、実際に各地を歩き子規の旅を辿っている。

 子規の三陸への旅と3・11を重ねるくだりは熱がこもっている。

歴史の証人 ホテル・リッツ』は十九世紀末にパリに開業した豪華ホテルの歴史だが、とくにナチス占領時代の話が面白い。

 ココ・シャネルや大スターのアルレッティはドイツの高官と付合う。それに対し支配人とその妻はレジスタンスを助ける。豪華ホテルが歴史の舞台になる。

芥川追想』は昭和二年に自殺した理智的な作家の思い出を、同時代の菊池寛、谷崎潤一郎、萩原朔太郎らが語る。作家どうしの友情が浮かび上がる。

 シリーズ化して鴎外、漱石、荷風も出してほしい。

新潮社 週刊新潮
2017年8月17・24日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加