中江有里「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

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中江有里「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 辻村深月『かがみの孤城』はそれぞれの事情で学校へ行けなくなった十代の子どもたちが、鏡の向こうの世界で出会い、現実には持てなかった自分の居場所を得ていく。読みすすめるうちに自分が同世代だった頃の息苦しさが蘇った。設定から子ども向けと思われるかもしれないが、生き辛さを抱える大人にも響くはず。物語にちりばめられた伏線がラストに近づくにつれて見事に回収されていく。読後、大きな波にさらわれるような感動を覚えた。

 藤沢周『武曲(むこく)II』は、現代の剣豪小説。竹刀を構えた剣士のリズムが文字を通して体の芯までビリビリと伝わる。第一章「アルデバラン」に出てくる能楽の秘伝書「風姿花伝」から剣道の神髄を見いだしていく高校生剣士の鋭さにハッとし、自らの刀が他者を生死の境目に追いやってしまった呪縛に震えた。神は細部に宿る、と言うが剣道の宇宙は本書のそこここにある。

 桜庭一樹『じごくゆきっ』は、青春、恋愛、暴力ありの短編集。誤解を恐れず言うならダークなJ-POPのよう。短く強烈なフレーズに込められた何通りもの意味、何度も聞きたく(読みたく)なる中毒性。日本が舞台なのに見知らぬ国の物語みたいにも思えてくる。でも現実にはこんなに甘美な地獄はない。

 郷原宏『乱歩と清張』は推理小説の巨匠・江戸川乱歩と松本清張の軌跡を綴る。この両雄が戦後の国産推理小説界の中心であり、ミステリ隆盛の根幹にあった。巨匠たちの作品案内としても興味深い。

 梶よう子『ご破算で願いましては みとや・お瑛仕入帖』は、両親を亡くしてから、江戸の百円ショップとも言える「みとや」を経営するしっかり者お瑛の物語。頼りない兄が仕入れた商品の謎から、思わぬ真相が浮かび上がる。お瑛の意外な弱点が涙を誘う時代小説。

新潮社 週刊新潮
2017年8月17・24日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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