<東北の本棚>人間中心の世界観排す

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<東北の本棚>人間中心の世界観排す

[レビュアー] 河北新報

 プロローグにこう書く。
 「人間も虫も/この地球に生きている。/今を。」
 「虫」をテーマにした詩が、著者のライフワークだ。人間中心の世界観を、昆虫の愛と悲しみや生態を描くことで本来、地球には多様な生物がすまうのだという世界観を取り戻したいと訴え掛ける。全43編。
 <この箱の中から/どんな虫が出てくるのか。/まだ/みなさんにお見せをする訳にはいかない>。飼育中の箱の中。水をやり、葉を与え、新鮮な空気を与える。昆虫の「生」の誕生の場面だ。
 <ああ/とても/いいわ。/おれたちはこうして/はじめて触れ合って>と大胆に、昆虫の男と女の「性愛」の場面を描写した。人間世界と昆虫の世界は等価である。そして詩の後半で「人間どもにおれたちのいのちはやれぬ」と突き放す。人間側の傲慢(ごうまん)さを否定しているのだ。
 著者は1946年福島県浪江町生まれ。福島第1原発事故で避難し、現在は相馬市に住む。前作の詩集「荒野(あらの)に立ちて-わが浪江町」で望郷の念をつづった。
 今回の詩集でも<おい どうしたんだよ/その体は。/放射能とかいうものに/やられてしまったのだよ。/誰を恨めばいいんだ。>と人間の側の犯した罪を、昆虫に託して批判する。
 コールサック社03(5944)3258=1620円。

河北新報
2017年8月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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