<東北の本棚>津軽の精神世界を探訪

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<東北の本棚>津軽の精神世界を探訪

[レビュアー] 河北新報

 津軽地方では全国に広がるカッパ伝説が進化し、水虎様(すいこさま)と呼ばれる像となって各集落に祭られてきた。著者は1990年代、農林水産省の土木技術者として青森県に出向。独特の精神世界が残る地域を探訪した結果をまとめた。
 水虎様は明治期、現在のつがる市で水死者が多発したことに心を痛めた住職がカッパ像を作らせて寺に安置したのが始まりとされる。著者は水虎様(あるいは水神様)が祭られている五所川原市周辺の神社などを訪ね、80カ所で確認した。
 カッパが神に昇格した事例は和歌山県などに点在するが、津軽では実態を持つ像の形で集中的に分布するため「全国でもユニークな存在」と強調する。
 背景には江戸時代以降の津軽藩による新田開発があるという。人を寄せ付けない荒野が新しい村になった一方、凶作や河川の氾濫による犠牲者が後を絶たなかった。人々は特に水死した子どもを悼み、再び命が奪われないように、神の使いであり妖怪でもあるカッパを神格化した。「そうした祈りは悲哀を緩やかに癒やす回路だった」と著者は結論付ける。
 津軽でメドツ、メドチなどと呼ばれるカッパについて、菅江真澄、柳田国男、渋沢敬三らの文献を紹介。市町村史や郷土の出版物で表されたカッパの特徴として、赤い顔、猿のようにしわだらけ、頭の上に皿があるといった共通点や相違点を分析する。
 さらに、水虎様の管理者に像の形や由来、神前行事などをアンケートした結果を報告。津軽で育まれた信仰が受け継がれることを強く願う。
 著者は1955年大阪市生まれ。
 津軽書房0172(33)1412=2160円。

河北新報
2017年8月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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