『躍る六悪人』
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[本の森 歴史・時代]『躍る六悪人』竹内清人
[レビュアー] 田口幹人(書店人)
時代小説の皮を被ったアクション娯楽時代劇の世界を、大江戸ピカレスク小説として表現したエンターテイメント小説『躍る六悪人』(ポプラ社)は、映画等の脚本家として活躍されている竹内清人氏の小説家としてのデビュー作である。
「新たなダーク・ヒーロー(義賊)堂々誕生!」という帯の言葉を見て迷わず手に取った一冊だった。
舞台となる天保年間のダーク・ヒーローといえば、天保六花撰を思い浮かべる時代小説ファンが多いだろう。悪事をはたらいている極めつきのワルなのに、なぜか憎めぬ片岡直次郎、金子市之丞、森田屋清蔵、丑松、河内山宗俊、三千歳という六人の悪党を描いた世話講談「天保六花撰」に材を得た物語は、藤沢周平『天保悪党伝』(新潮文庫)や北原亞以子『【贋作天保六花撰/うそばっかりえどのはなし】』(徳間文庫)など、これまで多くの作品を生み出してきた。『天保悪党伝』では、身分の低い者たち、貧しき者たちが、人並みに暮らすことが難しかった時代における悪事を描いた名作であり、『贋作天保六花撰』は、悪党小説ではなく、人情味たっぷりの物語にして魅せた名作中の名作だ。併せてお読みいただきたい。
本書の舞台は、大飢饉と悪政で窮民が溢れた天保年間の江戸。強請りやたかりを生業とする御数寄屋坊主の河内山宗俊は、時の老中・水野忠邦とその腹心・鳥居耀蔵の罠に嵌められ、放免と引き換えにある謀略に加担することを持ちかけられる。
幕政改革の邪魔をする敵である中野碩翁の失脚を目論む水野忠邦が、悪人には悪人をということで、河内山宗俊一派に話を持ちかけた謀略とは、継嗣・家慶に将軍職を譲ってもなお、大御所として幕政の実権を握っている徳川家斉の側近中の側近である権力者・中野碩翁が屋敷に隠し持つ財宝を奪うことだった。
権力を笠に不義を働き、碩翁の蓄えた隠し財産は十万両だという。その隠し財産は、厳重な警備の上に、天才からくり師・国友一貫斎が手がけた危険なからくりが幾重にも仕掛けられた金蔵に隠されていた。
直次郎や丑松、花魁の三千歳ら河内山一派は、一貫斎の息子である突貫斎を仲間にし、難攻不落の金蔵破りに挑む。その強奪劇は、ぜひアクション娯楽時代劇であることを念頭に置いてお楽しみいただきたい。
本書は、「天保六花撰」のメンバーが、違う立ち位置で登場し、さらに、オリジナルメンバーに新たに加わった者も登場する。知恵と策略のせめぎ合いを演じる登場人物たち。作者は、作中タイトルにある六人の悪人を限定せず、誰が悪人なのかの判断を、それぞれの読者に委ねているのだ。その仕掛けとともに、アクション映画の面白さが盛り込まれた新しい読後感を得ることが出来るだろう。