[本の森 恋愛・青春]『明治乙女物語』滝沢志郎/『きょうの日は、さようなら』石田香織/『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻

レビュー

6
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  • 明治乙女物語
  • きょうの日は、さようなら
  • ボクたちはみんな大人になれなかった

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 恋愛・青春]『明治乙女物語』滝沢志郎/『きょうの日は、さようなら』石田香織/『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻

[レビュアー] 高頭佐和子(書店員・丸善丸の内本店勤務)

 久々に新人作家の小説ばかり読んでいる。デビュー作と思えない力のある作品ばかりで驚かされる。まずは、松本清張賞受賞の『明治乙女物語』(滝沢志郎著、文藝春秋)。乙女というと袴姿の女学生のイメージだけれど、高等師範学校女子部が最初に採用した制服は「バッスル・スタイル」のドレスだったそうだ。クラシカルな洋装の女学生が並ぶ表紙を、見ただけでときめいてしまった。

 日本人離れした美人で成績優秀、物怖じしない性格の咲と、真面目で負けん気が強く、友達思いの夏。二人の女学生が巻き込まれる爆発事件や華やかな舞踏会シーンがドラマティックに描かれ、読んでいて飽きることがない。

 伊藤博文や森有礼ら政治家たちの裏の顔を描く一方、女学生たちを見守る舎監の二葉先生や、複雑な生い立ちの俥夫・久蔵、唐人お吉をモデルにした女性など、市井の人々の痛切な思いが丁寧に描かれている。女子が学ぶことに対し逆風が吹き荒れる中、傷つき迷いながらも前に進もうとする乙女たちの真摯な生き方に心打たれ、読んでいるうちに自然と背筋が伸びていた。

 石田香織氏の『きょうの日は、さようなら』(河出書房新社)は、「海と山に囲まれた街」で一人暮らしをする小さな会社の事務員・キョウコが主人公。平穏な暮らしをしているが、かつて「兄」であった男と偶然に再会してしまう。子供の頃、親の再婚と離婚により、短い間兄妹として幸せな時間を共に過ごしたキョウスケは、かかわりたくないタイプの悪質なバカ(だけど憎めないいい男)に成長している。

 元兄妹の二人も個性的な街の住人たちも、居場所を失った過去を持ち、孤独と悲しみを内側に秘めている。だからこそカラッとした明るさで損得抜きに互いを思い、支え合う。その温かな関係や、ユーモラスな言葉を交わす彼らの姿が、連続ドラマでも見ているかのように目の前に浮かんできて、気がつくと私も一緒に笑い、「あかんたれ」な兄の心配をしていた。これから活躍が楽しみな著者だ。

 恋愛小説と言えば、話題のSNS出身作家、燃え殻氏の『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)である。著者と同じく90年代に20代だったせいもあり、記憶と小説の世界が混ざり合って、読んでいると懐かしさと恥ずかしさが溢れてくる。女としては突っ込みを入れたい部分もいろいろあり、冷静には読めない小説だ。あの頃一緒に時間を過ごした人たちとは、二度と会わなくていいし、日頃思い出しもしないのだが、「燃え殻、読んだ?」と聞いてみたいような、みたくないような……。居心地の悪い感傷のような気持ちが湧いてきたことに驚いた。

新潮社 小説新潮
2017年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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