『100億人のヨリコさん』刊行記念インタビュー 似鳥鶏

インタビュー

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100億人のヨリコさん

『100億人のヨリコさん』

著者
似鳥鶏 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911812
発売日
2017/08/16
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『100億人のヨリコさん』刊行記念インタビュー 似鳥鶏


似鳥鶏さん

変人ばかりの学生寮が

世界を救う、

前代未聞の小説です

 

今年デビュー十周年を迎え、

新作四冊の刊行を中心に

記念キャンペーンが賑やかな似鳥鶏。

三冊目の刊行となった本作は、著者にとっても

新たな試みに満ちた意欲作となった。

着想のきっかけと狙いを語ってもらった。

 ***

――非常に変わった作品になりましたね。もともとどこから発想されたのでしょうか。

似鳥 これは、デビューから十年やってきて、はじめて突然閃いた、つまり「降りてきた」タイプの話でして。最初は貧乏変人学生寮の寮生たちが大学で起こる日常の謎を解決していくというタイプの話を構想していたんですけど、それだけだと普通だなと思ってしまって。もっと他にないもの、自分にしか書けないものはないかと考えていたんです。このままでは、学生たちの変人っぷりが足りない。もっとすごく変な奴が出てくるようにしよう。たとえば、そこらに生えてる変なキノコを食べちゃったり、自分の部屋の天井に血まみれの女が張りついているのを目撃しても平気だったりして。しかも、血まみれの女が張りついていても「幽霊が出たなあ」という感想にはとどまらなくて、どういう理屈でどういう原理で張りついているのか調べないと気がすまない性格で。そんな奴だったら、もし原理を解明したら、世間がどれだけ騒ごうとも発表したくなるだろうし。面白くなりそうだ! ……そんな風に考えていたら、こうなりました。

――昔からあたためていたアイディアというわけではないんですね。

似鳥 創元推理文庫の「市立高校シリーズ」のあとがきで、「私の部屋では夜、目を覚ますと天井に血まみれの女が張りついていたりする」と書いたことはあるんです。そのヨリコさんが、妙に周囲で好評でした。

――当時、もうヨリコさんという名前もあったんですね。

似鳥 ヨリコさんでした、最初から。『まもなく電車が出現します』のあとがきが初出だったと思います。でも、ただのネタで、そこまで拡げられるようなものではありませんでした。以前住んでいたアパートがボロくて、いろいろ起こるところだったので、それをあとがきで説明しているなかで出てきた文章です。出してみたら好評だったので、次の巻のあとがきにも登場しましたが、今回、まさかタイトルになるとは……。

――学生寮が発想のスタートだったとのことですが、寮住まいのご経験はあるんでしょうか。

似鳥 寮の経験はないです。大学の頃に住んでいたのは、家賃一ヵ月二万七千円の非常に安いアパートでした。こんなにうるさくて変人ばっかりのところには、私は住めないです(笑)。執筆中にイメージしていたビジュアルは京大の吉田寮だったんです。また、筑波(つくば)大の平砂(ひらすな)宿舎が一部で「スラム」と呼ばれているんですが、そんなスラムから見てももっとスラムな学生寮があれば、舞台として面白いかな、と。それが作品に登場する富穰(ふじよう)寮です。

――本作の登場人物にはモデルはいるんでしょうか。

似鳥 ほぼモデルなしで書けました。出てくる人物がかなりぶっ飛んでいるので。今回はモデルを作らなかったのが良かったのかな、と思います。

――そんな変人学生たちが、ヨリコさんの謎に、様々な専門分野や学説を駆使して挑むわけですが、作中に出てくる学説はどこから持ってきたものなのでしょうか。

似鳥 「ニュートン」などの雑誌を読んでいて、一般科学のレベル、相対性理論とか量子論とかブレーン宇宙論みたいなものは好きなので、そうした理論を元に「宇宙の姿は実はこうなんじゃないか」というような仮説を幾つか考えついたりしていました。そうしたアイディアを応用して、今作に使えるようなトンデモ理論を導き出したわけです。

 現実にヨリコさんが現れたら、はたしていつまでも「怖い、不思議だ、幽霊だな、成仏させないと」で済ませているだろうか、と思うんです。特に現代日本に住む、現役の学生が。

 読者の立場でも、昔からそこが納得いかなくて。怪現象をそのままほっておくわけがないだろう、と思っていました。ほんとうにそんなものが実在する、あるいは見えるのだったら、脳科学とか物理学とかの一大発見でしょう。ブラックホールが肉眼で見えたくらいの大発見ですよ。だったら、研究して分析しようとするのが普通だろう、と。実際に血まみれの女性が見えたら、学生たちは徹底的に科学的に分析して、新しい学説や報告まで辿り着くのではないか。そう考えて、作中で必要な学説を作ったわけです。

 基本的にはミステリーで不可能犯罪ものを構想するときと同じ考え方ですね。ミステリーでは、閉ざされた部屋の中で人が死んでいたりしますから、これを徹底的に理屈で考えていって、どういう方法であればこの状態が出来上がるだろうということを推理します。

 同じように、目が覚めたら天井に血まみれの女が張りついていて、ぽっと消えた。それが本当に起こったとして、どういう理屈をつければ説明できるだろうと考えたのが今作です。

 もともと、どうやっても理屈がつけられないような状況に、あえて理屈をつけるのが私は異常に得意なので。とにかくもっともらしい説明をつける。そこに関してだけ言えば、日本でトップクラスに得意なんです、私。ですから、得意分野を活かすと、こんな話ができるんだなあ、と思いました。

光文社 小説宝石
2017年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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