背中を押される――『つぼみ』著者新刊エッセイ 宮下奈都

エッセイ

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つぼみ

『つぼみ』

著者
宮下奈都 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911799
発売日
2017/08/16
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

背中を押される

[レビュアー] 宮下奈都(作家)

 初めての長篇小説『スコーレNo.4』が刊行されたのは、ちょうど十年前のことだ。『つぼみ』に収められている短篇は十一年前のものからあるから、スコーレよりさらに前に書かれたものだということになる。私のデビュー作となる「静かな雨」を読んで、あるいはその次に書いた「日をつなぐ」という短篇を読んで、声をかけてくれた編集者は、三人。その三人のうちの二人が、光文社の編集者だった。宮下に声をかけていることをお互いに知らぬまま、別々に手紙をくれたらしい。彼女たちのおかげで、スコーレが生まれ、こうしてつぼみが生まれた。

 でも、今回、短篇たちを読みなおして感じたのは、そういう懐かしさや感慨とは別のものだ。それとは正反対の、ハッとするような新鮮さを感じたのだ。今ならこんなふうには書かないだろう、と思うところもあった。もしかするとそれは、こんなふうには書けない、のかもしれない。こんなふうには感じられない、ということかもしれない。十一年前の、あるいは五年前の、このときにしか書けないものを書いていたのだと、あらためて思った。

 六篇のうち三篇は、スコーレのスピンオフだ。続篇を読みたいという声をいただくことが多かったのだけど、麻子はもう語らないだろうと思った。七葉に聞いても、静かに首を振って断られるだろう。しばらく時間を置いたら誰かが語ってくれるだろうかと待つうちに生まれた三篇だ。ちょっと意外な人物が主人公になって、津川家に関わってくる。

 ほかの三篇は、単発で読み切りのものだ。三篇とも趣向も傾向も違っていて、びっくりした。こんなふうに書けたんだな、という思いは、私を励ます。もう、このときのようには書けないかもしれない。だけど、新しく書けることがある。今だから感じること、思うこと、考えることを信じて、私はまた書いていこう。やっぱり、小説っておもしろい。もっと読みたい、もっと書きたい、と思った。

光文社 小説宝石
2017年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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