『反教養の理論』 コンラート・パウル・リースマン著

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反教養の理論

『反教養の理論』

著者
コンラート・パウル・リースマン [著]/斎藤 成夫 [訳]/齋藤 直樹 [訳]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784588010613
発売日
2017/07/18
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『反教養の理論』 コンラート・パウル・リースマン著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

憂える改革、大学の危機

 学生 先生が紹介された本を読みました。

 教授 オーストリアの哲学教授が書いた本格的な大学論だね。どんな感想を持ったかい。

 学生 ヨーロッパの大学事情も分かりましたが、大学改革に厳しいのには驚きました。

 教授 伝統と制度の多様性を特色にしてきたヨーロッパの大学が、アメリカのスタンダードで画一化されていく危機感が強いんだ。日本でも似たことが起っているよね。

 学生 小さい頃から教育や入試の制度がコロコロ変わってきたので、私はあまり気にしませんでしたが、昔はもっと良かったんですか。

 教授 以前だって「半教養」が厳しく批判されていた。だが、この数十年は特に改革のための改革という流れが激しいように感じるね。

 学生 「教養」ですか。大学でもよくこの言葉を聞きますが、あまりピンときません。

 教授 教養は人間精神を形成することだから、経済や情報の価値とは無縁だ。それが忘れられて知識が効率や有用性で計られるのが「反教養」という危機だ。知識の管理化だよ。

 学生 クイズ番組なんかで知識や情報をもてはやす傾向は、確かに大学ランキングと同じで、知識を量で評価しているようですね。

 教授 しかも、それが産業化された評価基準だと反省しないでいる。大学では昔も今も教養の重要性を謳(うた)うが、実質が変わっている中で議論しても自己欺瞞(ぎまん)になり、教育も研究もますます悪くなる。君たち学生には申し訳ないが。

 学生 確かに、僕たち学生のことはちっとも考えていませんね。改革でかえって状況が悪化しても、誰も責任を取らないように見えます。

 教授 何も考えない、それが反教養という著者の批判点だ。理解しようという意欲自体を失うこと、それが大学の理念にもっとも反する。

 学生 大学生として、著者が論じていたニーチェやカントを読みたくなりました。(斎藤成夫・齋藤直樹訳)

 ◇Konrad Paul Liessmann=1953年生まれ。ウィーン大哲学科教授。著書に『近代芸術の哲学』『物の宇宙』。

 法政大学出版局 2800円

読売新聞
2017年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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