『今日はヒョウ柄を着る日』 星野博美著

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今日はヒョウ柄を着る日

『今日はヒョウ柄を着る日』

著者
星野 博美 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000612104
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『今日はヒョウ柄を着る日』 星野博美著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

心の内奥見抜く怖さ

 星野博美は怖い人である。猫を愛し、ユーモアがあり、一見おおらかそうだ。しかし、病巣の正体を正確に突き止める内視鏡にも似て、人の心の内奥をたちまち見抜いてしまう。

 コーヒーショップに集まった女性、男性、男女混合の各グループ。一見楽しそうだが、超能力?の持ち主の彼女には呪詛(じゅそ)や威嚇、甘え、牽制(けんせい)、詐欺などが渦巻いているのがわかるのだ。

 ヒョウ柄を身に着けたおばちゃん分析は秀逸である。なぜヒョウ柄なのか。「自らを大きく見せて戦いを有利に運ぼうとする行為、つまり『武装』なのではないか」。それはヒョウでなければならぬ。ライオンには柄がない。虎は微妙だ。阪神タイガースファンに間違われるし、阪神はあまり強くない。狼(おおかみ)も柄がない。

 母親の持ち物を調べる。ヒョウ柄のスカーフにヒョウ柄の傘、そしてシマウマ柄のシャツ。まずはシマウマから入り、次第にスカーフや傘といった小物にヒョウを取り入れていく。

 風呂から出てきた父を見るとラクダのシャツを着ているではないか。3枚のセーターには仔犬(こいぬ)の刺繍(ししゅう)がある。働き者のラクダの魂を持ち、仔犬を愛(め)でる父とヒョウへと進化を遂げつつある母。2人の上下関係は一目瞭然である。

 彼女が8歳の時に祖父が亡くなった。その前日は夕焼けが出てカラスが鳴いていた。本当にそうだったのか。母や2人の姉に聞いたが、はっきりしない。みな祖父が死ぬのを知っていたのに、自分は知らなかった。しかし、不吉なカラスが鳴き、気味の悪い夕焼けが出ていたと覚えているのは、祖父が死ぬ前、一瞬にせよ、祖父の死を察知した証人として必要だったのではないか。このあたりの描写にはすごみがある。

 「無人島に本を一冊持って行くとしたら、どんな本を選びますか?」「最後の晩餐(ばんさん)に食べたいものは何ですか?」。よくある問いがいかにナンセンスか。完膚なきまでにやっつける小気味よさもこのエッセーの魅力である。

 ◇ほしの・ひろみ=1966年東京生まれ。ノンフィクション作家。『コンニャク屋漂流記』で読売文学賞。

 岩波書店 1400円

読売新聞
2017年8月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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