最愛の夫を亡くしたFacebook COO シェリル・サンドバーグが学んだ、人生を打ち砕く経験から回復するためのステップ

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OPTION B

『OPTION B』

著者
シェリル・サンドバーグ [著]/アダム・グラント [著]/櫻井祐子 [訳]
出版社
日本経済新聞出版社
ISBN
9784532321598
発売日
2017/07/20
価格
1,760円(税込)

最愛の夫を亡くしたFacebook COO シェリル・サンドバーグが学んだ、人生を打ち砕く経験から回復するためのステップ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び』(アダム・グラント著、櫻井祐子訳、日本経済新聞出版社)の著者であるシェリル・サンドバーグは、Facebook(フェイスブック)のCOO(最高執行責任者)。慈善活動家、ビジネス・リーダーでもあり、著作『LEAN IN ―女性、仕事、リーダーへの意欲』を世界的ベストセラーにしたことでも知られています。

本書は、最愛の夫を突然失うことになった彼女が、友人の心理学者であるアダム・グラントから教わった「人生を打ち砕く経験から回復するための、具体的なステップ」について説いたもの。そして、その根底に根ざすコンセプトは「レジリエンス」です。ご存知の方も少なくないと思いますが、自分自身の状況を前向きに受け止め、不安に負けることなく生きていくための概念、あるいは心の持ちようのこと。

配偶者を亡くした人の半数以上が、6ヵ月後には心理学者が「鋭い悲嘆」と呼ぶ段階を脱しているという。悲嘆はありのままに受け止めなくてはいけないが、どれだけ早く虚空を通り抜けられるか、その過程でどのような人間に成長するかは、自分の信念と行動次第でコントロールできるのである。

「バラ色」だけの人生を送っている人なんて、ひとりも知らない。生きていればだれだって苦難に遭遇する。前もって察知できる災難もあれば、不意を襲われることもある。子どもの急死のような悲劇もあれば、恋愛の破局や叶わなかった夢のような苦悩もある。こういうことが起こったときに考えるべきは、「次にどうするか」である。

それまで私は「レジリエンス」とは、苦しみに耐える力だと思っていた。だから、自分にその力がどれくらいあるのかを知りたかった。でもアダムは、レジリエンスの量はあらかじめ決まっているのではない。むしろどうすればレジリエンスを高められるかを考えるほうが大事だという。レジリエンスとは、逆境が襲いかかってきたときにどれだけ力強く、すばやく立ち直れるかを決める力であり、自分で鍛えることができる。それはめげない、へこたれないといった、精神論ではない。精神を支える力を育むことなのだ。

(以上、「はじめに」より)

長くなりましたが、大切な部分なのでここは引用しておきたいと思いました。いずれにせよ本書は、シェリルとアダムがレジリエンスについて学んだことを伝えようとする試みだということです。

いくら食い止めようと奮闘しても、逆境や不平等、トラウマなどは存在するもの。だから私たちは、それに立ち向かうしかない。そのためには、レジリエンスを育む必要があるという考え方。ふたりは心理学者の研究成果を検討し、挫折や滅多にない困難を跳ね返した人たちから直接話を聞いたといいますが、その結果、レジリエンスに対する考え方が大きかったと振り返っています。

そこから得たものをまとめた本書は、シェリルいわく「人間精神に備わった、がんばり抜く力についての本」。きょうは「1. もう一度息をつく」から、重要な部分に焦点を当てて見たいと思います。

「3つのP」とは?

著者によれば、私たちは人生のネガティブなできごとをさまざまな方法で処理するうちに、レジリエンスの種まきをするのだそうです。そして、ここで紹介されているのが、心理学者のマーティン・セリグマンによる、人が失敗や挫折にどう対処するかについての研究。そこからは、「3つのP」が苦難からの立ち直りを妨げることが明らかになったというのです。

「3つのP」とは、自責化(Personalization:自分が悪いのだと思うこと)普遍化(Pervasiveness:あるできごとが人生のすべての側面に影響すると思うこと)、そして永続化(Permanence:あるできごとの余波がいつまでも続くと思うこと)

簡単にいうとそれは「すべてはサイコー!」の裏返し、すなわち「すべてはサイテー!」の状態だと著者。「このサイテーなできごとは自分のせいだ。なにもかもがサイテーだ。この先ずっとサイテーだ」という考えが、頭のなかをずっとまわり続けるということ。

だからこそ、つらいできごとが「自分ひとりのせいではない、すべてではない、ずっとではない」ことに気づけば、立ちなおりが早くなる。それは、多くの研究によって示されているのだといいます。ネガティブなできごとを自責化、普遍化、永続化しない人は、うつになりにくく、状況によりよく対処できるのだという考え方です。

「3つのP」のうち私がいちばん手こずったのは、永続化である。何カ月ものあいだ、何をどうがんばっても、押しつぶされそうな悲しみがいつまでも続くという考えを振り払えなかった。悲劇を乗り越えた知り合いはみな、悲しみは必ず癒えるとなぐさめてくれる。いつか笑ってデーブの思い出話ができるよ、と。でも信じられなかった。(中略)デーブのいない生活がこの先ずっと続くと思うだけで身がすくんだ。(27ページより)

たしかに、そんな暗澹たる気持ちを持つ人は少なくないでしょう。苦しみの渦中にあるときはその気持ちが永遠に続くような気がするもの。事実、将来の自分がどんな気持ちになるかを予測する「感情予測」の研究により、人はネガティブなできごとの影響が、実際より長く続くと予測しがちなことがわかっているのだそうです。

しかし、ここには重要なポイントがあります。前出のセリグマンによれば、「けっして」や「ずっと」のような言葉は永続化のサインだというのです。いわれてみればネガティブな気持ちになっているときは、現実をそのような言葉でまとめてしまいがちかもしれません。「けっしてうまくいくはずがない」とか、「ずっとこの苦しみが続く」とか。

でも、だとすれば突破口があることにもなります。ここに至るまでにシェリルは「ごめんなさい」を禁句にすべきだという発言をしているのですが、同じように「けっして」と「ずっと」もNGワードにすればいいということ。そして、代わりに「ときどき」と「最近は」を使うようにする。たとえば「これからもずっとひどい気分だろう」を、「ときどきはひどい気分になるだろう」と言い換えるわけです。

もちろんそれだって楽しい考えとはいえないでしょう。しかし、それでもだいぶマシであることは事実。シェリルも思考をそのような方向に転換したことによって、「割れるような頭痛が和らぐときがあるように、痛みが晴れる瞬間があることに気がついた」と記しています。晴れ間が増えていくにつれ、悲しみのどん底に戻ったときにも、よいときのことを思い出せるようになったとも。

たとえいまはどんなにさびしくても、次の晴れ間が必ずやってくるとわかった。このことは、「自分でなんとかできる」という感覚、すなわちコントロール感をとり戻すのに役立った。(29ページより)

また、「認知行動療法」も試してみたそうです。その名称は難しそうな印象を与えもしますが、けっしてそうではありません。自分を苦しめている考えを紙に書き出し、次に、その考えが誤っていることを示す具体的な根拠を書くだけ。たとえばシェリルの場合は、まずいちばん恐れていたこととして書いたのは、「子どもたちはもう二度としあわせな子ども時代を送れない」ということ。

いうまでもなく、子どもたちが父親を失ってしまったことを憂いていたわけですが、書き出してからしばらくすると、「幼いころに親を亡くしながら、この予測の誤りを地で証明した知り合いがたくさんいる」ことに気づいたのだといいます。

また別のときには「もう二度と晴れやかな気分になれない」と書いたそうですが、文字を見つめていたら、ちょうどその朝、誰かのジョークに声をあげて笑ったのを思い出したのだとか。ほんの一瞬のことだったとはいえ、それだけで誤りを証明できたというのです。

嘆き悲しむこと、そしてお互い結びつくことは、どちらも人類が進化の過程で獲得した習性なのだと、精神科医の友人が教えてくれた。喪失やトラウマから立ち直るためのそうしたツールを、私たちはいまでは生まれもっているのである。そう考えると、「大丈夫、乗り越えられる」と思えるようになった。人は苦しみを克服するように進化したのだから、深い悲嘆でだめになってしまうことはない。人類がこれまで何世紀にもわたり愛と喪失に向き合ってきたことに想いを馳せ、人類共通の経験という、とても大きなものとつながっていることを心強く感じた。(30ページより)

喪失はどんな人にも降りかかるもの。仕事を失うこともあれば、愛や命が失われることもあるでしょう。しかし大切なのは、そうしたことが起こるかどうかと考えることではなく、だれもが向き合わなくてはならないということ。たとえ人生の濁流にのみ込まれても、水底を蹴って水面に顔を出し、もう一度息をつくことはできる。そんなことをシェリルは学んだといいます。それは、だれの人生にも応用できる発想でもあるはずです。

著者がいうように、人生には苦難がつきもの。しかし、だからといって落ち込んでいるだけでは意味がなく、それを克服することが大切だということを本書は教えてくれます。苦しいなにかに痛めつけられていて、しかし、それを乗り越えたいと思っているのであれば、ぜひとも読んでみるべき。そう強く断言できます。

メディアジーン lifehacker
2017年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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