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【対談】柴田元幸×早助よう子/村上柴田翻訳堂の楽しみ方
[文] 新潮社
村上柴田翻訳堂とは
作家・村上春樹さんと柴田元幸さんが「この名作が手に入らないというのは間違っているぞ」「刊行からしばらくたっていても、現代作家と同じくらい新しい」という作品を選び、新訳・復刊してお届けする新潮文庫のサブレーベル。各巻巻末に収録されている店主の両氏による〈解説セッション〉も必読! 第一期として以下の作品を刊行した。
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早助 〈村上柴田翻訳堂〉は、こっちは村上さんが選んだものかなとか、これは柴田さんが推したものかなとか考えるのが楽しかったです。
柴田 お互いに「これいいんじゃないですか?」と作品を挙げていって、「それはいい」と意見が一致するときもあったし、「そんなの全然知らない」というものでも一方がいいと言えば「じゃ、それいきましょう」と決めていきました。トマス・ハーディ、フィリップ・ロスあたりは二人の意見が一致しました。
早助 この間、アメリカ人の友人にこのシリーズのことを話したら、これは一体どういう基準で選んでいるんだって驚愕してました。確かにハーディとコリン・ウィルソンが並ぶって、わけわかんないだろうなあ。目をつぶって選択基準を当てるのは、そうとう難しそう。
柴田 池澤夏樹さんの〈個人編集 世界文学全集〉のラインナップだって、バランスよく重要作品を押さえた現代世界文学アンソロジーを予想する人からすれば違和感があるかもしれません。普通アンソロジーを編むときは、個人的な好みとかはなるべく排除するから。
早助 藤本和子さんが編集した〈北米黒人女性作家選〉や早川書房の〈ブラック・ユーモア選集〉なども、普通の全集とはちょっと別の雰囲気です。
柴田 二つとも素晴らしいアンソロジーですよね。でもまああれははっきりテーマがあるから。今の日本にはなぜか、池澤さんの全集や〈翻訳堂〉みたいに、個人的な思考や信念から選びましたというのが肯定される文脈があって、それはとてもうれしい。
早助 うん、そういうのっていいですよね。ところで〈翻訳堂〉は、七〇年代半ばから八〇年代初頭くらいに死んだ、学生のベッドサイドに積んであった十冊の本という感じが……。
柴田 それはすごく正しい(笑)。僕らが選んだ作品は、全集に入るには新し過ぎるし、マイナー過ぎるし、ジャンク過ぎるんじゃないかと思う。概してアンソロジーってAクラスが揃わなきゃいけないっていう前提があって、それに対抗してやったわけじゃないんですけど、結果的にそうなっているかもしれない。
PR誌は楽しい
早助 『宇宙ヴァンパイアー』はそれこそ、規格外のうさんくささですね(笑)。また、そこが最高です。こういう作家が流行った時代があるというのは勉強になりました。
柴田 この人の一番有名な本は『アウトサイダー』というアンチヒーロー論で、若者がその一冊を抱えてパリへ行く、みたいな本でしたね。ブローティガンとかジャック・ケルアックを抱えて西海岸へ行くみたいに。
早助 柴田さんは二十歳の頃イギリスに行かれたとき、そういう本はありましたか?
柴田 それが全然ないんです。その頃、本なんか読まなかったので。イギリスでヒッチハイクしていて、あまりに車が来ないものだから道ばたに座り込んでオーウェルの『1984』を読み切ったのが、生まれて初めてペーパーバックを読破した経験でした。
早助 わたしは読むものがなくなるのがキョーフで、切らさないように気をつけてます。デビューして小説を書くようになって、ちょっと軽減しましたけど。読むものがなければ書いてりゃいいと、あるとき発見したんですよ。
そしてあの、「波」みたいなPR誌は日々の持ち歩きに重宝してます。私、“PR誌知識人”を自称してて(笑)。もう文庫すら重いと感じるときがあって、ピンチだなと思うんですが。……重い単行本を割ったこともあります。PR誌は軽くて、いろんな話が入ってて好きなんですよね。
柴田 いや、PR誌ってこの分量でどれも中身濃いですよね。