【対談】柴田元幸×早助よう子/村上柴田翻訳堂の楽しみ方

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【対談】柴田元幸×早助よう子/村上柴田翻訳堂の楽しみ方

[文] 新潮社

うまければ、それでいい

柴田  ところで、アメリカに〈ライブラリー・オブ・アメリカ〉という叢書があります。これ専門のNPOがやっている、アメリカ文学のスタンダードを作ろうという全集です。最初はメルヴィルとかホーソーンあたりから始めて、最初のうち存命の作家で入ったのはフィリップ・ロスとユードラ・ウェルティだけだったけど、最近はけっこう生きている人も入れています。

 で、〈翻訳堂〉でこの叢書に入っているのはロス、ウエスト、マッカラーズ、それにラードナー。コリン・ウィルソンとハーディはイギリス人だから入っていなくて当然ですが、アメリカ人だけどサローヤン、ジョン・ニコルズあたりは入っていない。

早助  世界文学全集って、日本だと昔はそうそうたる教授陣が何時間も協議して作っていたと聞きますね。〈翻訳堂〉は……好きな本を独断と偏見で選んだ感じがしますねえ。

柴田  そう言ってもらえるとうれしい。文学全集とは違うけど、ハリウッド映画の、アンケートに基づいて作ったみたいな感じ、嫌なんですよね。独断と偏見が愛情のほうに働けば、そんなに恥じなくてもいいかなと思う。独断と偏見が否定のほうに働くのは嫌だけど。

早助  もし誰かに「こんな変なセレクトをして無責任じゃないか」って言われたら、何て答えます?

柴田  うーん……平等を期して何もやらないより、部分的にしかできなくても、とにかく何かに光を当てるのはいいことだと思うって答えますね。マッカラーズを入れるんだったらオコナーも入れなきゃダメだろうって言う人はいるでしょうけれど、そういうことを言いだしたら何もできないから。

 村上さんと僕が若い頃読んだものという時代性はやっぱりあるだろうと思います。その時代性の外に出て、普遍的に網羅的にやらなきゃいけないとなると、こういう無茶な選択はできない。現代的な新しい視点からきっちり全集を組めば池澤さんのような仕事になるし、光文社みたいに昔の全集のセレクションをそのまま翻訳だけアップデートするというのもひとつのやり方だと思います。そのどっちでもない、中途半端なのがこの〈翻訳堂〉。中途半端って僕、ひとつの方法だと思ってるんですよね(笑)。

 たとえば若い頃に食べて美味しかったものって、一貫性とか統一性とかべつになくたっていいじゃないですか。それと同じで、僕らは「あそこで食べたトンカツはうまかった」みたいなものを並べてみたんだと思います。

新潮社 波
2017年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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