プレミアムフライデーに効果はある? 経済数量学者が明かす「経済」の真実

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

いまさら聞けない! 「経済」のギモン、ぶっちゃけてもいいですか?

『いまさら聞けない! 「経済」のギモン、ぶっちゃけてもいいですか?』

著者
髙橋 洋一 [著]
出版社
実務教育出版
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784788912946
発売日
2017/08/02
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

プレミアムフライデーに効果はある? 経済数量学者が明かす「経済」の真実

[レビュアー] 印南敦史

経済学は、社会のしくみを金儲けの観点でかなり説明できる学問である。ほとんど琴線に還元した話ばかりになるので、はっきり言ってえげつないし、イヤらしい。このイヤらしいところがおもしろいとも言える。(中略)「金儲け」というと、下品に思われる読者諸氏もいるかもしれないが、これは人のやる気につながるとても重要な要素だ。経済学では「インセンティブ」と言い、人のやる気を刺激したり、行動の要因になったりするものである。お金なり、時間なりのコストをかけるときには、それ以上のリターンがあると思うからこそ行動する。逆になければ行動しない。自分を省みれば当然のことだとわかるだろう。(「まえがき」より)

こう主張する『いまさら聞けない! 「経済」のギモン、ぶっちゃけてもいいですか?』(髙橋 洋一著、実務教育出版)の著者は、本書を学ぶリターンは「経済リテラシーを高められること」だと記しています。

経済数量学者という立場上、各種メディアにおいて経済認識が間違っている記事や、印象論で経済を語る評論家には怒りを覚えるのだとか。そこで、一般の人が「歪んだ情報」をそのまま信じてしまわないように、本書を書いたということです。

誰しもが感じるであろう「素朴なギモン」を入り口として、経済学の基本から日本経済についての真実までを、ロジックとエビデンスに基づいて答えているそうです。そんな本書の第1章「経済の基本についてのギモン」から、いくつかのポイントを引き出してみましょう。

プレミアムフライデーって効果あるの?

いうまでもなく「プレミアムフライデー」とは、「月末最後の金曜日はいつもと違う豊かさを楽しもう」と提唱する個人消費喚起キャンペーン。しかし盛り上がっているのかいないのか、いまひとつわからない部分があるのも事実です。注目すべきは、著者も「プレミアムフライデーで売上アップや景気回復を期待しているなら、『期待できない』としか言えない」と一刀両断している点。典型的な、失敗に終わる政策だというのです。

たしかに当日だけを見れば、デパートやカフェなどのお店を訪れるお客さんは増えるかもしれません。しかし使える金額は限られているのだから、お金を使うタイミングがずれるだけの話。収入が増えないと消費も増えようがないのだから、全体で見ると増えないという考え方です。そして、ここで引き合いに出されているのが「マクロ経済学」

経済学にはミクロ経済学とマクロ経済学の2つがあるんだ。

簡単に言うと、個人や1つの商品・会社・業界など、個別の案件の経済について考えるのがミクロ経済学。自分の半径1メートルっていうイメージ。そして、社会全体の経済活動を考えるのがマクロ経済学。モノの見方というか、立ち位置というか、そういうものが違うんだ。(19ページより)

たとえば「努力は報われる」という言葉があります。ミクロで考えればいい言葉だし、努力しようという気にもなります。ところがマクロで考えると、「努力は報われない」といえるのだそうです。

たとえば大学受験の場合、個人は「努力は報われる」と信じて勉強します。努力しないと受からないのだから、個人ベースで考えれば「努力は報われる」は真実だということになります。でも、全員が努力したらどうなるでしょう? 定員は決まっているのだから、全員が合格することはあり得ません。だからマクロ的に考えると、「努力は報われない」ということになるというのです。

個人の動きと全体の動きは、いつもイコールとは限らないもの。個人の行動と全体の動きは違うから、経済学では分けているのだそうです。でも、それがプレミアムフライデーとどう関係するのでしょうか? つまりプレミアムフライデーは、ミクロの発想でつくられた政策だということ。半径1メートルのことしか考えていないから、失敗するというわけです。

3時に仕事が終わろうが、残業して8時になろうが、遊ぶ人は遊ぶし、そのまま家に帰る人は帰ります。つまり、プレミアムフライデーがあれば売り上げが伸びるという発想自体がナンセンス。そう主張する著者は、テレビで解説している人気の経済学者も、だいたいミクロの話ばかりしていると指摘してもいます。だとすれば、その解説が真実から乖離していっても不思議ではないかもしれません。(16ページより)

どうすれば景気がよくなるの?

「遊ぶ人は遊ぶし、遊ばない人は遊ばない」という考え方は、たしかにそのとおりかもしれません。しかし全員が遊ばなくとも、遊ぶタイプの人がお金を使えば、多少は景気がよくなるのではないでしょうか? ところが、この疑問に対しても著者は「ならない」と断言しています。

理由は、可処分所得が限られているから。可処分所得とは、個人が使うことのできるお金のこと。給料からは社会保険や税金が引かれますが、そうして残った手取り額が可処分所得だということです。

もしも一人暮らしなら、給料から絶対にかかる生活費と貯金を引いた額がお小遣いということになります。たしかにプレミアムフライデーで早く帰ることができれば、普段の金曜日には使わない5000円を使うこともあるかもしれません。しかしお小遣いの額は一緒なので、もし金曜日に使ったとしたら、いつもは土日の使うはずのお小遣いがなくなります。お小遣いの総額が決まっている以上、やりくりするしかないわけです。

ちなみに、ここで登場するのが「貯金」についての話題です。マクロ的にいうと、みんなが貯金ばかりしていると消費が少なくなって経済に悪影響を与えてしまうことになります。しかし個人の家計というミクロでいうと、将来のために毎月きちんと貯金していることには意味があるといえます。

なお、可処分所得は、消費と貯蓄に分けられるのだといいます。でも、世の中には貯金する人もいれば、しない人もいるでしょう。収入が少ないため、ほぼ全額を生活費にしなければならないという人もいますし、性格的に貯金できないという人もいます。経済学では「消費性向」というそうですが、この消費性向を社会全体で平均すると、だいたい70〜90%で安定しているのだそうです。

仮に70%とすると、可処分所得である手取りが30万円だとすれば、9万円貯金して、21万円が使われることになります。消費性向は一定なので、消費に回される21万円を増やすためには分母を増やせばいい。いいかえれば、可処分所得を増やせばいいという発想です。そして手っ取り早く可処分所得を増やすには、減税して手取り額を増やすのがいちばんだといいます。マクロ的に考えれば、景気回復には減税が効果的だということ。

仮に、国民全員の可処分所得が1万円増えたとする。1万円を全額貯金にする人もいるだろうけど、1万円を全部使う人もいる。半分使う人もいるだろう。でも、社会全体の消費性向は7割だから、マクロ的に考えると7000円は使われることになる。それが1億2000万人だとしたら、8400億円の経済効果が見込まれるというわけだ。(30ページより)

簡単にいってしまえば、「時間があってもお金がなければどうにもならない」わけです。そして、それを経済学の側面から説明すると、「消費の源泉は財布」ということに。だから、プレミアムフライデーには期待できないというのです。

事実、これまでにも「ノー残業デー」など似たような政策があったものの、結果的には失敗しています。つまり、ミクロ的な発想をベースにしても、景気回復効果は見込めない。それが著者の考え方です。(27ページより)

経済って、そもそもなんなの?

聞きたくてもなかなか聞けない疑問のひとつが、「そもそも経済ってなんなのか」ということ。この疑問に対して著者は、興味深い発言をしています。「親が子どもを思う心」「男女間の愛」「愛国心」など、愛の定義もいろいろですが、経済についても同じことがいえるというのです。その時々、文脈の流れもあるし、人それぞれ違うということ。

経済をスマホで検索してみれば、「経済とは財やサービスを生産・分配・支出すること」というような解説が表示されますが、こうした教科書的な説明では意味がよくわかりません。そこで著者は、その定義を一般の個人のケースに置き換えています。

「財やサービスの生産」は働くこと、「分配」は給料をもらうこと、そして「支出」はお金を使うこと。つまり一般の人にとっては、「仕事して、給料をもらって、生活すること」そのものが経済だというわけです。(34ページより)

特徴的なのは、「一般の人たち」の代表というべき登場人物と著者との会話形式で解説が進められていること。そのため、難しい内容をも気軽に読めるというわけです。人には聞きづらい経済の疑問をクリアにしたいのであれば、読んでみる価値はありそうです。

メディアジーン lifehacker
2017年8月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • このエントリーをはてなブックマークに追加