『精神の革命』 J・イスラエル著 『正義・平等・責任』 井上彰著

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精神の革命

『精神の革命』

著者
ジョナサン・イスラエル [著]/森村敏己 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784622086147
発売日
2017/07/11
価格
5,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『精神の革命』 J・イスラエル著 『正義・平等・責任』 井上彰著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

今も続く思想の論争

 近代の民主主義の原理を説いた思想家としてホッブズ、ロック、ルソーを挙げ、その思想が欧米の「市民革命」を導いたと説く。高校教科書に見えるおなじみの論法であるが、実は海外でも日本でも、そうした説明をする思想史の専門家は現在ほとんどいない。それぞれの国内の歴史上の文脈のうちで政治思想を意味づける方法が専門業界ではすでに定着しているし、ポストモダニズムと多文化主義の風潮が、西洋近代の思想に普遍的な意義を見いだす姿勢を攻撃した。

 ところが英国の歴史家、ジョナサン・イスラエルは『精神の革命』(森村敏己訳)で、理念をめぐる大きな物語を提示する。大革命直前のフランスでは、ディドロ、ドルバックを中心とする急進的な論者たちが、平等原理に基づきながら理性による秩序の革新を唱え、旧来の身分制と教会の権威に対して徹底した批判を試みた。その言論を通じた「精神の革命」があったからこそ、絶対君主制を倒す革命も可能になった。

 この「急進的啓蒙(けいもう)」の運動は、国境をこえてドイツ・英国・米国にも広がり、現代に至るまで先進諸国のデモクラシーを支えてきたとイスラエルは説くが、その中心をなした平等原理は、いまどのように論じられているのか。井上彰『正義・平等・責任』は、英語圏の政治哲学・倫理学における論争状況に果敢に切りこんで、独自の見解を打ち出す。

 井上は平等を、人間の世界をこえた究極の価値として位置づける。一見、自然法論の復権かと見まがうが、そう設定することによって、資源の分配の公平さを確保するとともに、個人の苦境に関してある程度は本人の責任に委ねる処置を、合理的に組みこもうと試みている。

 思想の伝統は、先人の模倣ではなく、真剣な対決を通じてこそ生きのびてゆく。平等原理やデモクラシーに関する論争も、数百年をへていまだに継続中なのである。

今も続く思想の論争

 ◇Jonathan Israel=1946年英国生まれ。歴史家。

 みすず書房 5000円

 ◇いのうえ・あきら=1975年生まれ。東大准教授。

 岩波書店 4800円

読売新聞
2017年8月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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