『牛車で行こう! 平安貴族と乗り物文化』 京樂真帆子著

レビュー

6
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牛車で行こう!

『牛車で行こう!』

著者
京樂 真帆子 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784642083188
発売日
2017/07/06
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『牛車で行こう! 平安貴族と乗り物文化』 京樂真帆子著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

間違いだらけの車選び

 職場での地位もそこそこ上がって、経済的に余裕もできた。そろそろ憧れの牛車(ぎっしゃ)でも買って、平安貴族のようなカーライフを満喫しようか。というセレブにオススメな本がついに刊行された。本書には牛車生活を送るうえでの様々なノウハウが、初心者にも分かりやすく図入りで解説されている。その一端をご紹介しよう。

【車種】まず大事なのは、車種選び。唐車(からぐるま)はベンツ、檳榔毛車(びろうげのくるま)はクラウン、網代車(あじろぐるま)はアクア。清少納言は檳榔毛がイチオシのようだが、やはり自身の分(ぶん)を弁(わきま)えて、愛車はしっかりと選ぼう。

【乗り心地】現代の乗用車に比べて、牛車はサスペンションは良くない。とくに初めての人は乗り物酔いしがちなので要注意。牛が暴走する危険もある。車中には手すりも標準装備なので、初心者は手すりの位置も確認しておこう。

【乗り方】牛車は、後ろから乗って、前から降りる。これを間違えると、『平家物語』の木曽義仲のように800年後まで笑われるので要注意だ。基本的には4人乗り。車内では前列右側が一番上席、後列右側が末席となる。上司と乗るときは、ゆめゆめ座席を間違えないようにしたい。

【マナー】上司の車とすれ違ったら、車を道の脇にとめて、牛を車から離して、車全体で前傾姿勢をとって、心からのお辞儀を忘れずに。言っておくが、これを面倒だと思うような人には、雅(みや)びな王朝ライフは送れない。

 本書の優れているところは、以上の知識を踏まえなかったために起きた失敗談などを、古典文学や歴史資料からふんだんに引用している点にある。牛車を買おうという気のない人でも、これら牛車をめぐる悲喜劇を読むだけで十分に楽しめるだろう。また同時に、古典や日本史の理解も深まること請け合いである。

 牛車は高価な買い物だが、丁寧に扱えば数世代にわたって乗れる。買ってから後悔しないよう、購入を検討している人は、ぜひ事前に本書を熟覧してほしい。

 ◇きょうらく・まほこ=1962年兵庫県生まれ。滋賀県立大教授。著書に『平安京都市社会史の研究』など。

 吉川弘文館 1900円

読売新聞
2017年8月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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