『書架の探偵』 ジーン・ウルフ著

レビュー

5
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書架の探偵

『書架の探偵』

著者
ジーン・ウルフ [著]/酒井 昭伸 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784153350335
発売日
2017/06/22
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『書架の探偵』 ジーン・ウルフ著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

破天荒な未来図書館

 素敵に奇妙奇天烈(きてれつ)破天荒な一冊である。なにせ設定がぶっ飛んでいる。主人公が本なのだ。二二世紀の「ニュー・アメリカ」。図書館に蔵書ならぬ、作家のDNAから作り出された複生体(リクローン)の「蔵者」が並ぶ。利用者は本にして人であるこの複生体を借りられる。そんな複生体のひとり、二一世紀のミステリ作家E・A・スミスがある女性に借り出される。資産家の父が没して、兄が殺された。手がかりは父の蔵書『火星の殺人』。この本にどんな秘密が隠されているのか探ろうと、彼女は著者スミスの複生体を借りたのだが、もちろんこの本を狙って次々と追っ手が現われて、果てはふっと異界へ迷い込んでしまったり、さて、謎は解けるか、事件は解決するか。

 SFの骨格になつかしのハードボイルドや本格ミステリ、あるいは幻想文学の風趣も漂って、多様な読みが愉(たの)しめる。物語はハードボイルド風味なのに、スミスはまるで英国の名探偵のような口調でしか喋(しゃべ)れない。そのおかしな会話の妙に、人口が減少した「ニュー・アメリカ」のオフ・ビートに高度なテクノロジーに荒廃の気配と、これはもうジャンルを軽々と跳び越えて、この作家ならではの不思議で奇妙で異様な浮遊感が好き者には堪(たま)らない。

 著者は「新しい太陽の書」シリーズや『ナイト』『ウィザード』など、異世界幻想SF大長編で知られるが、『ケルベロス第五の首』『デス博士の島その他の物語』『ジーン・ウルフの記念日の本』など切れ味もあざやかな中短編の名手でもある。解説に「本」の存在を取り込んだ作品が多いとあるが、確かに私がいまのところいちばん好きな非SF作品『ピース』でも古書をめぐるエピソードが大きな役割を果たしていた。とにかく本が好きな作家なのだ。

 一九三一年生まれのウルフ、八六歳にして続編も予告されている。本好きおじいちゃん作家のまったり愉快にスリリングな奇想天外ホラ話、続きが待ち遠しい。酒井昭伸訳。

 ◇Gene Wolfe=米・ニューヨーク生まれ。SF・ファンタジーを代表する作家として知られる。

 早川書房 2200円

読売新聞
2017年8月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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