カリスマリーダーが先導する時代は終わった。これから求められる「新しいリーダーシップ」のあり方とは?

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40歳が社長になる日

『40歳が社長になる日』

著者
岡島 悦子 [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784344031487
発売日
2017/07/29
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

カリスマリーダーが先導する時代は終わった。これから求められる「新しいリーダーシップ」のあり方とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

40歳が社長になる日』(岡島悦子著、幻冬舎)の著者は、自身の仕事をひとことで表現するとすれば、「未来をつくる人をつくる」という言葉になると記しています。

これまで15年以上にわたって、社長のリーダーシップ開発支援をしてきました。今では年間200人以上の経営者のリーダーシップ開発、経営チーム強化、次の社長指名及びその登用計画であるサクセッション・プランニング(後継者育成計画)といった戦略的経営者開発コンサルティング業務にハンズオンで携わっています。(「はじめに」より)

そして本書を通じて訴えたい将来についての仮説が、「2025年、日本の大企業にも40歳社長が多く誕生する」ということなのだとか。事実、先見性のある社長がリードする企業においては、そのための取り組みがすでにはじまっているのだともいいます。

さらにいえば、そんな状況下において重要なことがあるのだとも強調しています。企業経営の舵取りが難しくなるなか、「経営トップの役割」の重要性が急速に高まっており、求められるリーダーシップが大きく変化してきているというのです。カリスマ的な存在がリーダーシップを発揮し、大きな旗印のもとに命令型で多くのメンバーを連れていく、というやり方では、もはやうまくいかなくなってきているというのです。

私が強く共感したのは、恩師であるハーバードビジネススクールのリンダ・ヒル教授が提唱している「逆転のリーダーシップ」「羊飼い型リーダーシップ」です。この新しいリーダーシップについて、本書で詳しく解説していきます。(「はじめに」より)

だとすれば、これからのリーダーシップについてはどう考えていくべきなのでしょうか? その答えを、第1章「『40歳社長』が必要な理由」のなかから探ってみましょう。

未来予測ができない、ビジョンがつくれない時代

ここでは「VUCA」という言葉が紹介されていますが、これは1990年代のアメリカで、冷戦終結後の複雑化した国際情勢を意味する軍事用語として使われるようになったもの。以下の単語の頭文字をつなぎ合わせた造語ですが、現在の社会経済環境において、きわめて将来の不確実性が高いということは、多くの人にとっての共通認識だと著者はいいます。

V=Volatility(変動)

U=Uncertainty(不確実)

C=Complexity(複雑)

A=Ambiguity(曖昧)

(14ページより)

「VUCA」は2010年代以降、経営やマネジメントの領域でも使われるようになり、ダボス会議でも、世界の現状を指すキーワードとして盛んに用いられているのだそうです。

テクノロジーの進化も加速度的に進むなか、間違いなくいえるのは、未来はきわめて不確実だということ。そして未来が不確実であるがゆえに、長期のワークキャリアデザインはもはやナンセンスなもの。現実味を帯びてきた「人生を100年生きる」という観点からも、将来のキャリアデザインの方法がまったく機能しなくなっていくというのです。そして企業経営の側面から考えると、自らをめぐる環境のみならず、働く個々の社員の考え方も大きく変わっていくということ。

「VUCA」は、ビジネスにおけるリーダーシップも大きく変えつつあるといいます。これまでのリーダーシップとは、自ら先頭に立ってビジョンという旗を振り、フォロワーをつくり、全員を同じ変革の方向にリードしていくことでした。しかし、いまやビジョンをつくることすら困難な時代。企業としてのミッションをつくることが、きわめて難しい世の中になっているというのです。

数十年単位のビジョンなど、とても現実的ではないとすらいいます。なぜなら、顧客ニーズは高速で変化していくものだから。だとすれば、どのようにボジョンをつくって行けばいいのでしょうか? 著者によれば、そのキーワードになるのが「共創」という考え方。(14ページより)

顧客インサイトは、組織の最前線にある

共創について語るにあたり、ここで紹介されているのは「博多マルイ」についてのエピソードです。マルイといえばご存知のとおり、若者向けのファッションに強い百貨店というイメージが圧倒的。ところが博多マルイは、あえて違った路線を選択して成功しているというのです。

従来、大型商業施設やデパートでは、エントランスから入った1、2階には雑貨や化粧品の売り場をつくることがセオリーでした。事実それは、当たり前の光景として認知されています。しかし、博多マルイは違うのだとか。なにしろ、1、2階で売られているのは食料品。「だし」が売られていたり、高級ジュースの店が入っていたりして、多くのお客が行列をつくっているというのです。

“ファッションの丸井”が「だし」を売るとは、ちょっと意外な話です。もし、初の九州出店にあたり社内からアイデアを募った結果、「食料品でいきましょう」「だしを売りましょう」「高級ジュースを出しましょう」という意見が出て来たとしても、おそらく経営会議では認められないでしょう。しかし、博多マルイは違ったわけです。そしてその理由を著者は「どんな店をつくるかというビジョンを、顧客と『共創』したからだ」と分析しています。

博多マルイは出店にあたり、徹底的に顧客の意見に耳を傾けました。なんと400回も顧客と直接コミュニケーションを交わす「お客様企画会議」を持っていたのです。その結果として、マルイとしての既定概念を取り払うような、これまでにはないお店ができました。そして、これが顧客に強く支持されることになったのです。まさに、それまでのバイアスを壊し新しい価値を創造するイノベーションが「顧客共創」という形で実現されたのです。(18ページより)

「モノが売れない」と言われるようになってからかなり経ちますが、実際には、売れているモノもある。強く支持されているサービスもある。売れないわけではなく、売れるべきものは売れているのだというのです。その背景にあるのは、「顧客」を本当に洞察できたかということ。いわゆる「顧客インサイト」をいかに探ることができるか、顧客インサイトをもとに顧客価値の再設計ができるかが勝負を分けるというわけです。

だとすれば、誰よりも顧客の近くにいるのは誰でしょう? それは最前線の現場であり、組織のフロントだと著者は断言します。実は、顧客インサイトを知っているのは、リーダーでもなければ、高い専門性を持った本社の人間でもないというのです。逆にいえば、最前線から離れたところから、寄ってたかってディスカッションを重ねたところで、顧客インサイトが見えてくるはずがないということ。

実のところ、顧客インサイトは必ずしも表に出てきているわけではありません。顧客の隠れたニーズをうまく引き出す必要がありますが、それを担うのは、最前線の現場なのです。(19ページより)

そうなってくると気になるのは「リーダーはなにをするのか」ということですが、このことが先に触れた「求められるリーダーシップが大きく変化してきている」という問題につながっていくわけです。具体的にいえば、これからのリーダーがすべきことは次のとおりだといいます。

大きな方向性を決め、顧客インサイトを引き出せる多種類の専門家を現場に配置し、その最前線の現場環境整備にコミットし、そこから抽出された顧客インサイトに基づいてビジョンをつくり上げていくのです。

顧客と共感し、共創して、自分たちのやるべきこと=ビジョンを打ち立てていくことが、リーダーには求められています。(19ページより)

誰かの、なにかの、特定の発想に基づいてビジョンを打ち立てるのではなく、顧客とともに発想していくことが必要な時代だという考え方。だからこそ、いわゆる「カリスマリーダー」にはリスクが潜んでいるということに、多くの人が気づきはじめていると著者はいいます。

たしかに、そのとおりかもしれません。たとえば、熱狂的な顧客視点を持ったカリスマリーダーが創出したイノベーションによって成功した企業においても、そのカリスマリーダーの持つ感覚が、顧客ニーズとズレてきた場合どうなってしまうでしょうか?

もしもカリスマリーダーが時代に適合できず、顧客インサイトとまったく違う方向に舵を切ってしまったとしたら、市場との大きなミスマッチが生まれ、会社が一気に傾きかねないということです。

だからこそ、むしろ顧客にできるだけ近いところで、できるだけオープンに、できるだけ多様な発想によって近づけば、顧客インサイトに近づくことができるという考え方。そんな時代がやってきているというのです。(17ページより)

三菱商事からキャリアをスタートさせ、ハーバードビジネススクールを経て、マッキンゼーで戦略コンサルタントを担当。その後、グロービスを経て経営人材開発コンサルティング会社「プロノバ」を設立。

そんなキャリアの持ち主だからこそ、ここで著者が訴えかけていることには大きな説得力を感じることができます。今後の企業のあり方を占う意味でも、読んでおくべき1冊だといえるでしょう。

メディアジーン lifehacker
2017年9月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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