<東北の本棚>羽黒山の修験道つづる
[レビュアー] 河北新報
「羽黒山伏」として山形県の出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)で宿坊を営む著者が約50年間重ねた修験を基に培った思想や「気付き」、人生訓をつづった。
山奥深くにこもり、悟りを得ようと厳しい修行を積むのが、山伏らが行う修験道とされる。著者は「大自然に身を置いて、感じたことを考える哲学」と修験道を位置付け、考えることより感じることが大事だと訴える。
山を女性の胎内に例える。修行で山に入ると生まれ変わり、新しい命となって出てくるととらえるからだ。山は命の源でもある。生命を養う食べ物は田畑で作られ、山に蓄えられた水が流れて田畑を潤す。「すべての生きとし生けるものは、山から命をいただいている」と感謝の意を示す。
「うけたもう」とは、羽黒修験にしかない象徴的な言葉だ。全てを自然から学び、受け入れることを意味する。掛け声を発して修行の場に身を置くと、多くの気付きがあるという。感じるままに生きることの大切さを示すエピソードの一つだ。
山や滝、岩-。修験はさまざまな対象を祈る。祈ることで初めて、祈りの場に身を置くことになる。祈る対象は身近にもあると著者は説く。
山岳信仰の歴史や修行の在り方に触れ、祈りの大切さなどを飾らない言葉で語り掛ける。悩みや迷いから解き放たれるためのヒントが詰まった一冊だ。
著者は1946年鶴岡市生まれ、同市在住。71年宿坊「大聖坊」13代目を継承し、尚文(しょうぶん)の山伏名を拝命した。出羽三山神社責任役員理事、NPO法人公益のふるさと創り鶴岡理事などを務める。
さくら舎03(5211)6480=1512円。