『熊が人を襲うとき』
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<東北の本棚>入山者の自主規律必要
[レビュアー] 河北新報
クマ出没、「クマに人間が食べられた」といったニュースが相次ぐ。もはやひとごとでは済まされない。クマに遭ったら、あなたならどう対応する? 助かる方法は? 民間のクマ研究の第一人者が過去のデータを基に対処法を論じた。
著者は明治時代後期から平成の現代までの全国の新聞記事をチェック、クマによる人身事故を調べ上げた。事故総数は1993件、被害者2255人。県別で事故件数を見ると(1)岩手(2)秋田(3)長野(4)福島(5)富山(6)山形(7)新潟(8)群馬(9)福井(10)青森-の順となっている。
最も被害が多いのは、タケノコ採りに入る春から初夏にかけてだ。母グマが子グマを連れて「狩りの訓練」をする。そこに遭遇すると攻撃してくるので、重傷を負うケースが多いという。雄グマもこの時期、タケノコばかりを夢中になって食べる、一種の高揚状態になっている。中山間地の過疎化で農林業の担い手が高齢化、また団塊世代が会社勤めを終え、自然志向で山に入る。被害者は60、70代が中心になる。
クマに遭遇した途端に逃げると、「弱いもの」と認識して追ってくる。逆に人間の側からの思いもかけない反撃に、クマの攻撃意欲がそがれることがある。「つえを振り回し、『このやろう』と叫んで撃退した」「ストックでクマの口を突いたら逃げた」場合もある。「クマが想定していない二つ以上の方法を組みあわせると効果的だ」という。
昨年春、秋田県で起きた4人の死亡事故について、前年は木の実が豊作で、子グマがたくさん生まれたが、一方で「昨年はタケノコが不作だった」のが一因と見る。「入山者の自主規律によって被害を防ぎたいものだ」と言う。
著者は1948年十和田市生まれ。秋田県庁自然保護課に勤務。その後、フリーとなり、国内外でクマ研究に携わる。
つり人社03(3294)0781=1944円。