【文庫双六】大人も読むべしYA帝王の名作――北上次郎

レビュー

8
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Dive!! 上

『Dive!! 上』

著者
森 絵都 [著]
出版社
角川書店
ISBN
9784043791033

書籍情報:版元ドットコム

Dive!! 下

『Dive!! 下』

著者
森 絵都 [著]
出版社
角川書店
ISBN
9784043791040

書籍情報:版元ドットコム

大人も読むべしYA帝王の名作

[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)

『星の王子さま』がそうであるように、児童文学の体裁を取りながら大人の鑑賞に耐える作品、というものは他にも数多く存在する。現代日本で、そのような作品を書いている作家を選ぶなら、森絵都は必ずあがってくるだろう。

 1990年に『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞してデビューしたこの作家は、児童文学界の賞を総なめにしたあと、2006年に『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞するが、その後も児童文学と現代エンタメの間を自在に行き来して作品を発表し続けている。

 小3から高3までのヒロインの日々を描く『永遠の出口』や、学習塾を経営する夫婦と家族の歴史を描いた『みかづき』という長編があるので、こう言ってしまうと厳密にはズレてしまうのだが、しかし森絵都はヤングアダルトの帝王であるとあえて言っておきたい。『カラフル』を始めとするヤングアダルトの作品群は本当に素晴らしい。このジャンルには『クラスメイツ』という傑作があるが、これはまだ文庫になっていないので、ここでは『DIVE!!』をとりあげておく。

 これは、飛込みという特殊な競技を描いた青春スポーツ小説である。オリンピックの代表選手の座をかけて飛ぶ少年たちの熱き戦いを描く長編である。

 飛込みがまだ高所から飛ぶだけの単純なスポーツだった時代、腕を真横に伸ばして飛ぶだけのスワンダイブと呼ばれる型があり、それは舞い上がる白鳥のように美しかったという。難易率が高くないから、いまでは飛ぶ選手は少ない。にもかかわらず、一人の少年がそのスワンダイブを飛ぶのが本書のクライマックスだ。

 いやはや、すごい。まさか飛込みがスポーツ小説の題材になるとは思ってもみなかったが、美しいスワンダイブに圧倒されるのはこれが森絵都の作品だからである。その張り詰めた緊張がここで一気に解放されるからである。

新潮社 週刊新潮
2017年9月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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