『ジョジョ論』 杉田俊介著

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ジョジョ論

『ジョジョ論』

著者
杉田俊介 [著]
出版社
作品社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784861826337
発売日
2017/06/23
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ジョジョ論』 杉田俊介著

[レビュアー] 伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

弱点こそが最大の能力

 「ジョジョ」すなわち『ジョジョの奇妙な冒険』といえば、今年で連載30年を迎える荒木飛呂彦作の超人気マンガである。ミケランジェロの彫刻のように美しく個性的な登場人物たち、ミラノのファッションブランドのようにきらびやかな衣装、そして少年マンガの王道たるめくるめく死闘と仲間との友情が特徴だ。一方で本書の著者は、障害者ヘルパーとして働く評論家であり、これまでに扱ってきたのはむしろ、男性の弱さや障害といった問題だ。意外なこの組み合わせ、興味をひかれないわけがない。

 『ジョジョ』を論じるために著者が召喚する比較項は、何と自己啓発本である。確かに『ジョジョ』は、自己啓発的な惹句(じゃっく)に満ちている。「真の『失敗』とは、挑戦を忘れた者たちの事をいうのだッ!」己の潜在的な能力を信じ、強い覚悟をもってのぞめば、必ず道は開ける。これが両者に共通する基本メッセージだ。

 しかし『ジョジョ』には自己啓発本とは決定的に異なる点がある。自己啓発本において、病や障害といったネガティブな要素は、成功に至るためのステップでしかない。それらはあくまで乗り越えられるべきものであり、その根底にあるのは市場経済的な価値観や能力主義だ。一方『ジョジョ』においては、だれもがかかえる弱点や病、狂気、障害といったものこそが、その人物の最大の潜在能力として扱われている。その象徴が「スタンド」と言われる、その人固有の守護霊のような存在だ。

 ひきこもりの男が持つ、巨大な鉄塔のスタンド。過去に犯した罪をひきずる男の、対象の時間を操る能力。こうした事例に、著者は自らの経験をならべてみせる。例えばあるヘルパーには知的ハンディがあったが、彼といるときだけ、問題を起こしやすい自閉症の少年がリラックスしていたという。『ジョジョ』の鮮やかな作品分析であるのみならず、弱さを強く生きる方法を教えてくれる。

 ◇すぎた・しゅんすけ=1975年神奈川県生まれ。批評家。著書に『宮崎駿論』『非モテの品格』など。

 作品社 1800円

読売新聞
2017年9月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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