野坂昭如はあまりに小説家だった

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

野坂昭如はあまりに小説家だった

[レビュアー] 図書新聞

 完全に打ちのめされた。生きること。死ぬこと。空腹をしのぐこと。性欲を吐き捨てること。そのようにして生きたり死んだりするほうが「普通」で、二〇一七年現在のほうが「異常」なのではないかと思えて仕方がない。野坂昭如というと、ある世代にとっては、ジブリ版『火垂るの墓』のイメージがほぼトラウマのようになって強すぎるし、そうでなければ大島渚(これもある世代にとっては「バカヤロー!」の人か)を殴った人という認識だろう。それも一面の事実だが、しかし野坂昭如はあまりに小説家だった。ある意味では、野坂昭如はずっと同じことを書いていて、その強度はもしかしたら中上健次をすらしのぐかもしれない。いままでまともに読んでこなかったことを後悔した。(6・20刊、二八二頁・本体九〇〇円・河出文庫)

図書新聞
2017年9月2日号(3317号) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

図書新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク