見えたり、見える人を見たり… 7つの「幽霊」短編集

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ゴースト

『ゴースト』

著者
中島京子 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022514837
発売日
2017/08/07
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

どの編もなにかの戦争と関わりを持つ7つの幽霊譚

[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

 幽霊にまつわる七編の短編集だ。どの編もなにかの戦争と関わりをもち、主人公や語り手は、霊が見える人だったり、霊が見える人を傍から見ている人だったり、霊に会いそうで会わない編もある。

 世の人々はゴーストを恐れる。復讐されたり恨み殺されたりするのでは、そんな恐怖からだ。とはいえ、ゴーストたちも楽ではない。「きららの紙飛行機」は、戦災孤児「ケンタ」の幽霊が主人公だ。なぜ、どの日に「出る」のか本人にもわからず、出ても気づいてもらえないことが多く、結構暇だったりする。出現が間遠になり、滞在時間が短くなっているのは、人々の記憶から消えつつある証しだろうか。あるときケンタはひとりぼっちの幼女と仲良くなる。

 あるいは「原宿の家」の語り手は、地上げの下調べで訪れた屋敷の玄関先で不思議な少女に出くわし、管理人の若い女と懇意になる。やがて、突然現れた老女から二人の話を聞くが……。かつてそこには、GHQが接収した家が建っていた。

 霊と同様、現世に生きているのに、耳を貸されない、目に入らない、思いだされない存在が共に描かれている。見捨てられた子どもたち、社会の隅に追いやられた老人たち。あえて人の陰に隠れるゴーストライター。

「亡霊たち」は、見えると見えないの間を行き来する。語り手の女子高生には、南方で戦った曾祖父が見ている「リョウユー」が見えない。しかしある作家の作品にふれて変化が起きる。本作中、外地に出征する夫の脇を歩く妻が、もう別れ際だというのにひと言、「こぼれてる、こぼれてる」と声をかける場面がある。水筒の水が漏っているというのだ。そうか、霊は案外、こんなことを言いたくて出てきているのかもしれない。怨念とか大義とか、そんな大仰なことばかりではなく。なんて書くと、本作のゴーストたちに、「あんた、なにもわかっちゃいないねえ!」と怒られそうだけれど。

新潮社 週刊新潮
2017年9月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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