現在と過去、三つの時制の中 待ち受ける驚くべき結末

レビュー

21
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

湖畔荘<上>

『湖畔荘<上>』

著者
ケイト・モートン [著]/青木純子 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488010713
発売日
2017/08/31
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

湖畔荘<下>

『湖畔荘<下>』

著者
ケイト・モートン [著]/青木純子 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488010720
発売日
2017/08/31
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

現在と過去、三つの時制の中 待ち受ける驚くべき結末

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 この道は、いつか来た道。

 そう呟きながら見たこともない道へと踏み込んでいく。帰れないかもしれない、と心の中で呟きながら。

 ケイト・モートン『湖畔荘』は、そんな読み心地の小説だ。現在と二つの過去、合計三つの時制を操りつつ作者は物語を進めていく。その中に足を踏み入れた途端、読者はたまらない懐かしさと心細さの間で引き裂かれるような思いを味わうことになるだろう。どの人物や風景にも見覚えがあるが、その正体が何であるか、はっきり言い当てることはできない。そんな判断保留の状態に留め置かれるからである。

 舞台はイギリスのコーンウォール地方、話の起点となるのは一九三三年六月二十三日だ。その日、エダヴェイン家の末っ子にあたるセオが行方不明になった。赤ん坊は二度と姿を現さず、一家に射した不幸の影は消えることがなかった。

 それから七十年後、ロンドン警視庁の刑事セイディ・スパロウは不本意な休職を命じられる。育児放棄した母親の失踪事件を担当する中で、失態を犯してしまったのだ。祖父の家で暮らし始めたセイディは、ジョギングの途中で森の中に埋もれた屋敷を発見する。それこそは、かつてエダヴェインの人々が幸せな暮らしを送っていた場所だったのである。関心を抱いた彼女が暇に飽かせて行方不明事件を調べる現在パートと、一家の次女アリスを軸として事態の進行が綴られることになる過去パートとが、並行して進められていく。

 上下巻、合わせて六百ぺージ以上の大作だが、挑戦する価値は十分にある。作者が現在と過去の間を行き来するさまは、幅の狭い廊下で跳ね返り続けるボールのようだ。あまりの速さに手出しできずに見とれていると、前方にはやがて思いもよらない光景が広がり始める。そこで待っているのは、モートン作品以外では決して味わうことができない結末だ。未知との遭遇に驚け。そして味わえ。

新潮社 週刊新潮
2017年9月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加