専門家はなぜ判断を誤る? 「マネー・ボール」著者が謎に挑む

レビュー

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かくて行動経済学は生まれり

『かくて行動経済学は生まれり』

著者
マイケル・ルイス [著]/渡会圭子 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784163906836
発売日
2017/07/14
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

合理的判断を誤る謎を解く、行動経済学の歴史

[レビュアー] 板谷敏彦(作家)

 著者はかつて、『マネー・ボール』(ハヤカワ文庫NF)というベストセラーを書いた。大リーグの貧乏球団アスレチックスが、データ分析を駆使して金をかけずにチームを強化していく物語で、ブラッド・ピットの主演で映画化もされた。

 ところがこの本に対して、高名な経済学者であるリチャード・セイラーや法学者のキャス・サンスティーンが好意的な書評ながらも、間接的に「著者は、『行動経済学』という学問があることを知らないのか」と指摘した。

 著者は、プロのスカウト達の思い込みのせいで、選手市場で評価されずに安く放置されていた大リーガー達の物語を描きながら、まさにその非効率をテーマとする行動経済学を知らなかったのだ。まだ当時はこの分野は黎明期で仕方なかったのだが、このことが著者をして本書を書き始めるきっかけとなった。

 物事の本質に迫るならば歴史から探らなければならない。著者はこの学問の生みの親であるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの二人のユダヤ人の学者に興味を持ち、行動経済学が誕生するまでの詳細な過程を物語にした。

 専門家はなぜ判断を誤るのか? 答えは自分に都合の良い材料ばかり集めるからである(確証バイアス)。自分の選んだモノは他者の持ち物よりもよく見える(保有効果バイアス)。結果を見て最初から予測できたと思い込む(後知恵バイアス)。

 二人の学者は、世の中の様々な非効率な事例を探して、人間が陥るいくつもの「バイアス」を発見し、理論化していった。

 先ずは医療の現場で採用され、そして経済学へと応用されていく。しかし業績が認められるにつれて、成果の配分をめぐり二人の仲は次第に疎遠になっていく。苦労を分かち合った二人でもままならぬ人間関係。行動経済学の誕生はまさに非効率な感情の物語だった。

新潮社 週刊新潮
2017年9月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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