ヒット作続く金融ノンフィクション、今度は「村上世彰」半生記

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3
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生涯投資家

『生涯投資家』

著者
村上 世彰 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163906652
発売日
2017/06/21
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

金融NFはヒット作続き 今度はこの人の半生記だ!

[レビュアー] 田中大輔(某社書店営業)

『住友銀行秘史』(國重惇史著、講談社)や『バブル:日本迷走の原点』(永野健二著、新潮社)など、昨年の後半から金融のノンフィクションが立て続けにヒットしている。村上ファンドを率い、「物言う株主」として日本に旋風を巻き起こした、村上世彰氏の『生涯投資家』もその流れの中にあると言えるだろう。村上氏が自身の半生と投資哲学を余すところなく語ったこの1冊が、発売2カ月で8万部を超えるベストセラーとなっている。

 村上氏は2006年6月に、ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引を行った容疑で逮捕され、のちに執行猶予つき有罪判決を受けた。マスコミに登場した際のきつい口調と、要点のみを畳みかける話し方には嫌悪感を覚えた人も多いだろう。村上氏自身もコミュニケーションの方法が拙かったと本書で述べている。この本を読むと、彼のネガティブな印象はかなり払拭されるに違いない。彼がやろうとしてきたことは一貫している。経営のルールであるコーポレート・ガバナンスを日本の企業に浸透させること。そして上場企業の「あるべきでない姿」を株主の立場から正すことである。

 彼の投資は徹底した“バリュー投資”。保有資産に比べ、時価総額が低い企業に投資をするという極めてシンプルなものだ。しかし、内部留保を積み上げるだけの企業経営のいびつさを指摘し、その改善を促すと、マスコミからは「ハゲタカファンド」などと批判をされてしまう。間違っているのはいったいどちらなのだろう? と思わずにはいられない。

 半生記の部分も読みごたえ十分なのだが、この本で注目すべきなのは、やはり投資哲学に関するところだ。彼の父の「上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ。一番安いところで買ったり、一番高いところで売れるものだと思うな」という言葉にはとても含蓄がある。また投資は「期待値」が高いものだけに行なえという考え方も非常に有用だ。勝率とは別の「期待値」という概念を取り入れるだけで、投資の質は確実にあがるだろう。「期待値」の計算方法も本書にでているので、ぜひ参考にしてほしい。そこを読むだけでも、間違いなくこの本を買う価値があるはずだ。

新潮社 週刊新潮
2017年9月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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