「仕事」から「しごと」へ。自分らしい働き方をデザインするために大切なこと

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3原則

『3原則』

著者
山梨 広一 [著]
出版社
SBクリエイティブ
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784797390483
発売日
2017/08/24
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「仕事」から「しごと」へ。自分らしい働き方をデザインするために大切なこと

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

3原則 働き方を自分らしくデザインする』(山梨広一著、SBクリエイティブ)の著者は、外資系コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーで25年間働いてきたという人物。トップコンサルタントとして多くのプロジェクトに携わってきた結果、次のような答えにたどり着いたのだそうです。

それぞれの仕事を

【原則1】無駄をなくす

【原則2】徹底的にこだわり抜く

【原則3】あえて「遊ぶ」

これら3つの原則を自由に組み合わせて、自分らしい働き方をデザインする。そうすることによって初めて、本当の意味での「クオリティ・オブ・ライフ&ワーク」が手に入るというのです。

1つ目の働き方は、マッキンゼー時代に徹底的に鍛えられ、自分自身が最も得意でもある生産性追求だ。2つ目は、より長期的な視点からコンサルティングの「しごと」を考える立場になって気づき、修得してきた生産性追求を超えた働き方である。3つ目は、自分が感じていた疑問に答えてくれた20代、30代の友人や後輩から学んだものだ。「しごと」も人生も豊かにしていくためには、1つではなく、複数の「しごと」と複数の働き方を、ひとりひとりが自分らしく組み立てていくことが「原則」だと思う。(「はじめに」より)

きょうは、第1章「『仕事』から『しごと』への意識転換」に焦点を当ててみたいと思います。なお、読み進めていく前に、まずは著者のいう「しごと」の定義を確認しておきましょう。この考え方が、本書の本質的な部分でもあるからです。

本書で言う「しごと」は、必ずしもお金をもらう仕事である必要はない。ただし仕事と同じぐらい本気で継続的にコミットするものである。それは地域貢献かもしれないし、社会活動かもしれないし、勉強や研究かもしれない。とにかく、そういったものを持っている人が、本当の意味で高い価値創造力を持ち、人生の質も高めることができる。(「序章 『仕事』を再定義することから、すべてははじまる」より)

生産性を高めるために、無駄な「しごと」と時間をなくす

「働き方改革」が政府の最重要課題のひとつになっていますが、働き方改革の最重要ポイントは「自由度」だと著者は主張します。単に早く帰れればいいとか、働く場所は会社以外でもいいとか、働いている時間と働いていない時間のバランスが取れていればいいとか、そういうことだけがゴールではないということ。

自由度を重視すべき理由は、当然ながらひとつだけではないでしょう。しかしそんななかで最も重視しなければならないのは、これからの時代には時間がますます大事になっていくことだといいます。

IoT、ロボティクス、2045年に訪れるといわれているAIのシンギュラリティ問題、少子高齢化などの要素を勘案すると、人間が現在「仕事」と呼ばれているものに費やす時間の総合計は減少していくであろうことがわかります。

確かに「働く人」の数は減少していく。その一方で、IoTやロボティクスの発達で効率は高まるし、働き方改革もあいまって1人あたりの労働時間も減っていくだろう。ということは、空いた時間が生まれてくる、既存の「仕事」以外に使うことができる時間が増えてくる、ということだ。こうして生まれる時間を無駄遣いせず、いかに有効に使えるか。それが、ひとりひとりの、そして日本社会全体の生産性を大きく左右する。ひとりひとりが持っている24時間という有限の資産を、経済的価値を生む「仕事」だけではなく、幅広い意味で定義する「しごと」のうち、やるべきこと、やりたいことに有効に使っていくことが働き方改革の本質なのではないか。(49ページより)

たしかに、現在議論されている時間短縮という話題は、ひとつの最重要課題ではあるでしょう。しかしそれは、時間を短縮して生まれた「空いた時間」をどう有効に使うかという議論とセットになっている必要があるということ。そして時間を有効に使うためには、「どういうときにどれだけの時間が空くか」という自由度が高いことが重要になるということです。人それぞれいろいろなニーズがありますが、働く個々人に時間の開け方の自由度が担保されていると、それぞれのニーズにあった時間を生み出せるという考え方。

さらに、時間という要素に関連するものが「場所」です。遠くから通勤している人が、会社の就業時間のなかでぽっかり1時間を空けられたとしても、できることは限られます。そんなとき、在宅、あるいは自宅ではなくても働く場所の選択に自由度があれば、「時間×場所」の自由度がさらに高まり、空いた時間の使い方の選択肢が広がります。つまり著者は、働き方を変えるには、そこまで考える必要があると考えているのです。

ひとりひとりの働き方の自由度をあげるということは、ひとりひとりに合った時間の使い方と空いた時間を生み出し、ひとりひとりが大事にしている価値基準に合うように「しごと」の質を高め、報酬を得ていく、ということ。それが社会をよりよくし、そうした社会に移行したときこそ、多くの人が目指すべき働き方が実現されたということになるはずだというのです。(47ページより)

「しごと」の定義は、1つに絞らない

働き方が話題に上った際には、「How(どうやって)」という話になりがち。しかし忘れるべきでないのは、本来は「What(どんなことを)」があって「How(どうやって)」があるはずだということ。著者はそういいます。Whatがずれていたり、間違っていたり、ありきたりのものだったりすると、どんなにHowを一生懸命がんばったところで大きな成果は生まれないもの。しかし、これからの時代の働き方を考えるにあたっては、Howより先にまずWhat、すなわち「しごとに対する定義」を見なおすべきだというのです。そして、しごとを再定義するためにまず必要なのは、しごとの常識を疑うこと。

「経済的な報酬を得ることである→本当だろうか?」

「しごとは1人に1つしかない→本当だろうか?」

「1つのしごとの定義は1つだけ存在する→本当だろうか?」

(52ページより)

このようにしごとを多様に定義できると視野が広がり、視点も変わるということ。そしてその結果、自由度やおもしろさも変わってきて、しごとの成果自体も向上するはずだというわけです。たとえば営業職にしても、ここのケースによってさまざまに定義することが可能です。

「自分の会社の製品・商品の価値を顧客に伝達するメッセンジャー」

「お客さまサイドに立ったコンシェルジュ」

「顧客への窓口としてわが社の理念やブランドを体現する存在」

「次世代の営業職のパイロットとしての先駆者」

「将来へ向けたさまざまな成長に役立つ対人スキルの修得機会」

(54ページより)

定義にはさまざまな発想があっていいそうです。最終的にはどれも正解で、1つに絞り込む必要もないとも。まさに自由であっていいわけです。

また、同じしごとをしていても自分なりに成長するためには、ステージに沿って自分のしごとを自分なりに再定義していくことが必要だとも著者は記しています。たとえば、優れた営業職として新規顧客との間に継続的な信頼関係を築き上げたとします。しかし経験を積ませるという意味でも、そうしたしごとは将来的に後輩や部下に移管すべきだというのです。なぜなら、その人が自分のしごとの定義を変えずにその取引に寄りかかったままでは、楽であっても成長は生まれないから。

だからこそ、そのうえで再び新しい取り組みを自分のしごととして再定義し、それに挑戦する。そうした姿勢こそが、自分の成長、部署の成長、会社の成長につながっていくというわけです。そこで、「しごとを再定義してステージを変える、ステージが変わればしごとを再定義する」という意識を持って実践していくべき。それが、著者の考え方です。(52ページより)

本書を読むと、豊かな実績が著者に与えた「自信」を実感できます。ひとつひとつの言葉に強い説得力があるのはそのため。さまざまな価値観が変容するなか、これからの「しごと」のあり方を再認識するためにも読んで見る価値がありそうです。

メディアジーン lifehacker
2017年9月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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