『仕事と家庭は両立できない?』 アン=マリー・スローター著

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仕事と家庭は両立できない?

『仕事と家庭は両立できない?』

著者
アン=マリー・スローター [著]/篠田真貴子 [解説]/関美和 [訳]
出版社
エヌティティ出版
ISBN
9784757123625
発売日
2017/07/31
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『仕事と家庭は両立できない?』 アン=マリー・スローター著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

理想と現実、葛藤を告白

 アン=マリーは、素敵な女性だ。外交官的な人あしらいのうまさは、彼女がいつも本当に思っていることを正直にしゃべっているように感じられるせいで、決して嫌味にならない。ときに少女のような天然で率直な性格は、本書の文にも表れている。彼女はオバマ政権発足時に、ヒラリー・クリントンによって国務省高官に抜擢(ばってき)された。2008年の米大統領選予備選でクリントンの外交ブレーンだったこともよく知られている。外交安保政策という男性が優位を占めていた社会で、国務長官を筆頭に女性がリードする未来がすぐそこにあるように思えた。

 しかし、アン=マリーはしばらく務めたのち、夫と子供たちが暮らしているプリンストンの大学に戻ることを選んだ。そして「なぜ女性はすべてを手に入れられないのか」と題し、赴任中子育てに問題が生じたことなどを、メディアへの寄稿記事で正直に語った。その記事は、全米のキャリア・ウーマンに少なからぬ衝撃を与えた。

 夫の単身赴任が当たり前の世の中で、母親のワシントンDC勤務が、どうしてそんなに問題を生むのか。トップのキャリアを目指してきたはずの彼女が、朝ごはんにパンケーキを焼きたいという「欲望」を抑えられなかったことの意味は何だろうか、と。全てを手に入れられるのだ、と若い才能溢(あふ)れる女性たちに教えてきた彼女は、それを阻むような社会や女性たち自身の考え方がそのままなのに、自らが理想論を説きすぎていたと気付いたのだ。その告白が赤裸々に語られているのが本書の一番の魅力だ。

 本書はきちんと「問題解決」の方法を探っている。社会の在(あ)り方をどのように変えれば、男女およびその他のジェンダーの人々が皆、幸せに近づくのか。むき出しの実力主義であるアメリカ社会だからこそ、女性がトップを獲(と)りにいくことと、競争から退出することのあいだに選択肢を求める努力もまた、ここまで真摯(しんし)なものたりうるのだと思う。関美和訳。

◇Anne‐Marie Slaughter=プリンストン大教授。ニューアメリカ財団最高経営責任者(CEO)。

 NTT出版 2400円

読売新聞
2017年9月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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