『パパは脳研究者』 池谷裕二著

レビュー

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『パパは脳研究者』 池谷裕二著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

子育て通し知る仕組み

 「この本を読んで見よう」と思わせるのは、まず、装丁だ。表紙が素敵だと自然と手が伸びる。僕は迷わず本文の最初の10ページを読む。作者は本文から「読んで欲しい」と思って書き始めるはずだから、そこが面白くなければご縁がない本なのだ。本書は、最初の小見出し「オキシトシンで愛情が湧く」でノックアウトされてしまった。母親が赤ちゃんをかわいいと思うのは、出産のとき大量に分泌されるホルモン・オキシトシンのせいなのだ。では父親は? 子育てに参加すればするほどホルモンが出て最終的には母親に追いつくのだ。本書は脳学者の子育ての記録だが、最先端の研究成果がふんだんにちりばめられており無類に面白い。

 「三つ子の魂百まで」は本当で、脳の神経細胞の数は3歳になるまでに70%が死滅し、残りの30%を一生使う。「二度あることは三度ある」は、何かを繰り返すうちに、自分の中で確信を深めていく「ベイズ推定」と呼ばれるプロセス。「ほめるとしかる」のバランスについて、ネズミに学習させる実験では「ほめる>ほめるとしかるのコンビネーション>しかる」の順で成績が良いが、人間ではどうか……などなど愛児の日々の行動を著者は脳科学の知見で一つ一つ丁寧に解説していく。どのページも目から鱗(うろこ)が落ちること請け合いだ。挿絵もとても温かい。

 このような本がもっと早く出ていれば子育てが格段に楽しくなったはずと思う人は多いだろう。しかし僕が一番惹(ひ)かれたのは、著者のスタンスだ。「結婚や子どもをもつことは個人の自由であり、他人の意見や世間の動向に個人の価値観が冒涜(ぼうとく)されることがあってはならない」「人は皆個性的で差があって当然、子どもの成長に神経質になることなくおおらかな目で見守る姿勢が大切」「適当だから脳=ヒトはすごい」。だからこそ、本書は強い説得力を持つのだ。本書は単なる子育て本ではなく、子育てをフックとして脳の構造を解き明かした傑作である。

◇いけがや・ゆうじ=1970年生まれ。東京大薬学部教授。専門は神経科学と薬理学。著書に『進化しすぎた脳』。

 クレヨンハウス 1600円

読売新聞
2017年9月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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