『妥協の政治学』 遠山隆淑著

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妥協の政治学 : イギリス議会政治の思想空間

『妥協の政治学 : イギリス議会政治の思想空間』

著者
遠山 隆淑 [著]
出版社
風行社
ISBN
9784862581099
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『妥協の政治学』 遠山隆淑著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

英の自由主義派に学ぶ

 「妥協の政治学」という題名を目にして、しっくりこないと思う方もおられるかもしれない。みんなの願いを受けとめ、その正しい内容を実践することで、現状を変革してゆく。「政治」についてのそういうイメージが流布する時代には、「妥協」などは中途半端でうさん臭いものと見なされてしまうだろう。

 だが、議会政治の確立期である十九世紀の英国で、「ウィッグ」と呼ばれた自由主義派の知識人・政治家たちは、そんなイメージの活動は「政治」ではないと考える。『イギリス国制論』を書いたウォルター・バジョットや、法制史の著作で知られるヘンリー・メインなどなど多くの有名人を含むグループであり、保守党と、よりラディカルなデモクラシーを唱える急進派との双方に対抗しながら論陣を張っていた。

 急進派の主張によるなら、社会における多数派の声を直接に反映するのが正しい政治である。だが、ひたすら「数」だけを基盤にした政治は、多数を占めるグループの要求を社会の全員に強制する、新たな専制を生み出してしまう。

 これに対して「ウィッグ」たちは、さまざまな意見や生活様式が共存できる「自由」と、全体の統治とを両立させる鍵として、議会政治における「妥協」の意味を説いた。そのメカニズムを支えるのは、多様性を尊重する英国人の性格と、リーダーたる政治家たちがもつ、社会の全体に共通する利益を探ろうとする感覚である。

 二十世紀に入ってデモクラシーの価値が自明になると、こうした「自由な統治」の発想は、時代遅れの道徳やエリート主義と見なされ、評判が悪くなった。だが、エキセントリックな主張を声高に掲げ、支持者の「数」をかき集めるような政治家が横行する現在、リーダーと一般の人々との関係をとらえなおす必要はないか。それを考えるためのヒントとして、「妥協の政治学」の意義はいまでも生きている。

 ◇とおやま・たかよし=1974年生まれ。国立熊本高専准教授。専門は、西洋政治思想史。

 風行社 1900円

読売新聞
2017年9月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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