「言えない」では何も解決しない! 言いにくいことを伝えるトレーニング法

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「言えない」では何も解決しない! 言いにくいことを伝えるトレーニング法

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「人間関係のつくりかた」がわからず、自信が持てない人が増えていると指摘するのは、『言いにくいことを伝える技術 〜もう振り回されない! ストレスフリーな人間関係を一瞬で手に入れるスキル〜』(大野萌子、ぱる出版)の著者。産業カウンセラーとして、長年にわたりビジネスパーソンの相談を受けているという人物です。

事実、寄せられる悩みの9割が「上司とうまくいかない」「部下指導に悩んでいる」「客先とトラブルがある」「家庭不和」など、人間関係に起因することだというのです。

そこで、今回、この本でお話したいのが「言いにくいことを伝える技術」です。人間関係が苦手な人にとっては、さらに難題ではありますが、それを身につけることによって、快適な関係性をつくって行くことが可能になります。(「まえがき」より)

ちなみに著者によれば、言えなくなってしまう原因は、「言いたいことを我慢する」ことにあるのだそうです。それが日常化すると次第に我慢している自分の気持ちがつかみにくくなり、ついには言いたいことが言えなくなってしまうということ。また若い世代には、「人から嫌われたくない」という意識が強すぎるという問題もあるのだとか。

社会生活を営んでいるといろいろな状況に出逢います。当然、言いにくいことを言わなくてはいけない機会も増えてきます。

ただ、そのようなとき、自己流で言うと相手を怒らせてしまったり、伝えたいことが伝わらないこともしばしば起こります。

この本ではそのような場合、どのように言えば相手が納得してくれるのか、相手との関係性を損なわずに受け入れてくれるのかをお伝えします。(「まえがき」より)

言葉は言い方次第でまったく違って伝わるもの。言いにくいことでも、伝え方次第できちんと伝わるということです。第3章「言いにくいことはきちんと伝えないと通じない」から、いくつかの要点を抜き出してみたいと思います。

ストレートに、的確なことがいちばん相手に伝わる

相手との会話でいちばん大事なのは、こちらの言いたいこと、伝えたいことが正確に相手に伝わること。それができなければ、本当の意味でわかりあえることはできないわけです。とはいえ人には「相手から嫌われたくない」「評価されたい」という思いもあるため、どこまでこちらの言いたいことを口に出してもいいのか悩むことにもなるでしょう。また、相手を不快にさせないようにと思うあまり、相手の様子を伺いながら遠回しに言うこともありがちです。

ところが婉曲な表現やオブラートに包んだわかりにくい言葉では、なかなか真意が伝わらないもの。しかも相手のことを思って伝えている気持ちが強ければ強いほど、相手がそれを察してくれない場合には腹立たしくなりがちでもあります。その結果、お互いの関係がギクシャクしはじめ、ついには壊れてしまうということも。

そうしたすれ違いを防ぐためには、相手に言いにくいことであっても、こちらの要求ははっきりとストレートに、的確に伝えることが大切だと著者。そしてそのためには、相手と精神的に対等な関係を築くことが大切なのだといいます。

そしてそのために大切なのは、相手との適度な距離感。近すぎると見えるものも見えなくなり、遠過ぎれば相手のことがわからなくなってしまいます。しかし適度な距離感を持って接すれば、相手の全体像がよく見えてくるというわけです。

なお、言いにくいことを言うとき、自分の感情が揺れ動くことを恐れる人は少なくありません。ところが、自分の心が動くことを恐れてはいけないと著者は指摘しています。言いにくいことを言わなければならないとき、心のなかで葛藤が起きるかもしれませんが、それは当たり前の話。逃げることなく、伝えなければいけないことは伝えるべきだということです。ただし、「感情を動かす」ことと「感情的になること」は違うので、その点は注意が必要。(88ページより)

言いにくいことを言うための段階別トレーニング法

言いにくいことを言うためのトレーニング法を説くうえで、著者は気持ちの波の大きさを「カレーの辛さ」にたとえています。

相手にちょっと気になる点がある、少し違和感がある、そんなときの気持ちは、まだ“小さい波”の状態なので「小さいことだから言わなくてもいいや」と思いがち。ところがそれは、知らず知らずのうちに「怒り」に成長してしまう厄介なものでもあるといいます。

このようなとき、カレーの辛さでたとえると甘口レベルのときに自分の気持ちを相手に伝えることができれば、気持ちに余裕がありますので、穏やかな相手に言うことができます。そうすると相手もそれを受け取りやすくなります。(105ページより)

でも「細かいことだからいいか」となにも言わなければ、当然ながら相手の行動は変わりません。最初はちょっと鼻につく程度だったものがイライラに変化してしまうので、カレーの辛さでいうと中辛レベルだということ。

イライラすれば当然相手に対して穏やかに接することは難しくなります。そのため、この時点で伝えようとすると言葉がきつくなったり、表情が硬くなってしまうわけです。すると相手の印象は、かなり悪くなってしまう可能性が。

しかし、このレベルになってもまだ、相手に伝えきれずに我慢してしまう人も多いのだそうです。すると気持ちは次の段階の、カレーの辛さでいうと大辛レベルへ。「怒りマックス」の状態だというわけで、相手の気になるところが見えてくると腹が立って仕方がない「ムカついた」状態。ここまでくると、伝えるにしても、ケンカを売るような状態になってしまうもの。お互いの人間関係が壊れる可能性が高くなるということです。

そこで、ここまで到達しないうちにその問題を解決する必要があるということ。感情の波が小さいうちに相手に伝えれば、自分にも相手にも受け入れやすいもの。そこで著者が勧めているのが、次のトレーニング法。この段階を目安にするといいというのです。

1. 言いやすい人に言いやすいことを言う

2. 言いやすい人に言いにくいことを言う

3. 言いにくい人に言いやすいことを言う

4. 言いにくい人に言いにくいことを言う

(106ページより)

著者によれば1から4に行くに従って難易度が上がっていくのだそうです。つまり、この練習をやさしいほうから難しいほうへと引き上げていけば、言いにくいことを言えるようになっていくというわけです。最初から4の段階までジャンプできる人はいないので、スモールステップで、やさしい段階からトレーニングしていくことが大切。

また、場数を踏むことによって自分のなかにバリエーションが増えていくのだといいます。たとえば誰でも、初めて訪れたお店では容量がよくわからないもの。しかし2回、3回と通ううちに、どんなメニューがあるか、注文の仕方はどうするのかなどがわかってきます。

同じように、人間関係でも経験が必要だということ。ところが私たちは、1回失敗しただけでダメになってしまうと思い込みがち。特に「自分のことを察してほしい」「わかってほしい」という欲求が強い人ほど、たった一度のすれ違いに動揺してしまうもの。そしてそれが、「なぜわからないんだ!」「なぜ理解できないんだ!」と怒りに転じやすくなるというのです。あるいは、「いちいち小言は聞きたくない」「言い方がわからないから我慢している」という場合も。

しかし、どんなに親しい間柄でも「ツーカー」の関係になるのは不可能。ときには相手と自分の気持ちや行動がぴったり合うこともあるでしょうが、そういうことはむしろまれだと著者はいいます。人の心はわからないのが当たり前。そのためぶつかることもありますが、それを解消する手段として、いいにくいことも伝える必要があるということです。(104ページより)

伝え方については、多かれ少なかれ誰しもが悩むもの。しかし決定的な答えがあるわけではないので、なかなか判断が難しいところでもあります。そこで本書を参考にし、自身のシチュエーションに即した最適な手段を模索してみてはいかがでしょうか?

メディアジーン lifehacker
2017年9月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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