<東北の本棚>指導員、被災農家支える

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<東北の本棚>指導員、被災農家支える

[レビュアー] 河北新報

 過疎や高齢化、市場の縮小など厳しい環境にさらされている農業の現場にも、東日本大震災は容赦なく襲い掛かった。農家支援を目的として各地区に配置された普及指導員たちはその時、何を考え、どう行動したのか。彼らの証言をまとめた本書は、絶望的な状況に追い詰められた農家に寄り添い、共に再生を目指す「協働の精神」の重要性を浮き彫りにする。
 石巻農業改良普及センター(石巻市)の普及指導員は、家族、友人を失い、生産現場も壊滅状態に陥った農家に通い、その声に耳を傾けた。「あまりにかわいそうなので、話を聞くべきではないという人もいますが、そうではないと思う。やっぱり農家は話したいと思う。行って話を聞くことが重要」と振り返る。
 相双農林事務所農業振興普及部(南相馬市)の普及指導員は、東京電力福島第一原発事故に対する怨嗟(えんさ)の声の受け皿になったという。「原発から20キロ圏内に牛を置いてきた農家に『あの牛は捨てろと言うのか』と聞かれ『そうです』としか言えないのがつらかった」と明かす。同時に「自分が恨まれて農家の気持ちが晴れるならそれでいいと思いました」。
 日頃の信頼関係があればこそ、普及指導員の「聞く力」が農家の精神面を少なからず支えた。併録した識者の論考で「農と自然の研究所」代表の宇根豊氏は、普及指導員は農家の苦しみをわが事のように引き受ける「内からのまなざし」を持っており、「同情」でなく「共苦」の感覚を抱いたと分析する。
 首都大学東京の山下祐介准教授は「もっと個々のワタクシの思いや願いをオオヤケの振る舞いにつなげるような、そんな復興の在り方が求められねばならない。その最前線に普及指導員と農家の関係はある」と説く。小さな思いを丁寧にすくい取る努力の積み重ねが地域農業の希望をつなぐのかもしれない。
 農文協プロダクション03(3584)0416=2376円。

河北新報
2017年9月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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