【文庫双六】ドゴール暗殺を狙う秀逸のサスペンス――川本三郎

レビュー

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ジャッカルの日

『ジャッカルの日』

著者
Forsyth, Frederick [著]/篠原 慎 [訳]/Forsyth Frederick. [著]
出版社
角川書店
ISBN
9784042537014
価格
907円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【文庫双六】ドゴール暗殺を狙う秀逸のサスペンス――川本三郎

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 カミュは一九一三年、フランスの植民地支配下にあったアルジェリアに生まれている。ピエノワールと呼ばれた植民地生まれのフランス人。自身が異国に育った異邦人だった。

『異邦人』のムルソーは「アラビア人」を殺すが、その男に名前は付いていない。アルジェリア生まれのフランス人、ムルソーにとって現地の人間は「アラビア人」であって個性を持っていない。植民地の支配層と被支配層には明らかに断絶がある。

 カミュは一九六〇年に自動車事故で死去するが、晩年のカミュを悩ませたのがアルジェリア問題。独立運動を起したアルジェリア人と、それを弾圧するフランス人の間に立たされ、沈黙せざるを得なかった。

 独立運動とそれを阻止するフランス軍の戦いは熾烈を極めた。FLN(民族解放戦線)と、独立阻止の保守派が作った秘密軍事組織OASが激しく対立した。

 筆者は当時、高校生だったが、日本の新聞でもアルジェリア問題は大きく報道され、政治意識の低い高校生にも「OAS」やテロに使われた「プラスチック爆弾」はなじみになった。

 当時の大統領はドゴール。保守派の期待を担って登場したにもかかわらず、アルジェリアの独立容認に動いた。裏切られたOASは大統領暗殺を試みた。実際に一九六二年八月には暗殺未遂事件が起きている。

 本書は、追いつめられたOASが最後の手段として英国人の殺し屋を雇い、ドゴール暗殺を企てるサスペンス。その面白さはいまさら喋々(ちょうちょう)する必要はないだろう。ドゴールは生き残ったのだから、暗殺が失敗するのは読者に分っている。それでいて読ませる。

 ドゴールが必ず公衆の前に姿を現わす日がある。八月二十五日。ナチスドイツの占領が終った解放記念日。

 殺し屋は一九六三年のその日を狙う。失敗の原因が、イギリス人の暗殺者はフランス人の接吻の習慣を知らなかったためという落ちには唸ったものだった。

新潮社 週刊新潮
2017年9月21日菊咲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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