[本の森 仕事・人生]『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ/『パドルの子』虻川枕

レビュー

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夜空に泳ぐチョコレートグラミー

『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

著者
町田 そのこ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103510819
発売日
2017/08/22
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

パドルの子

『パドルの子』

著者
虻川 枕 [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591155288
発売日
2017/07/13
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 仕事・人生]『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ/『パドルの子』虻川枕

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

 およそ半世紀ぶりとも言われる連続降雨が話題となった今年の夏。雨宿りついでに立ち寄った書店で出合った、二人の新人作家のデビュー作はどちらも、水にまつわる物語だった。

 町田そのこ『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社)は、昨年度「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作を含む全五編収録の短編集。冒頭の一篇「カメルーンの青い魚」が受賞作だ。〈大きなみたらし団子にかぶりついたら、差し歯がとれた。しかも、二本〉。不運な「私」は二本分の空白を舌でなぞり、歯をなくした出来事を思い出すことから、「りゅうちゃん」の記憶を呼び覚ます。大好きだった人。真面目で、優しすぎた人。それなのに、「この街に、一人きりの私を置いていく」決断をした人。この日、「私」は彼と一二年ぶりの再会を果たす。まったく変わっていないと感じさせる二人の関係の特別な温度感が、「水槽」と「外来魚」というメタファーを通じて描き出されていく。その先で、彼と彼女の関係性を決定的に変化させるサプライズが発動する。

 象徴性とトリックが、ドラマを色づけドラマのギアを上げる――全五篇に共通するその手つきは、すでに作家性と呼ばれるべき個性を獲得している。短編同士の関連性もほどよく、心地いい。最終五篇のタイトルは、「海になる」という。その一語が、人生に泳ぎ疲れ、おぼれそうになる五人の主人公たちを包み込む、おまじないの言葉になる。あたたかな読後感だった。

 虻川枕『パドルの子』(ポプラ社)は、第六回ポプラ社小説新人賞受賞作だ。中学二年の一学期の終わり、「ぼく」は旧校舎の屋上で奇妙な水たまりと、そこでバタフライをしている他クラスの美少女・水原と出会う。彼女はここで「パドル」をしている、と言う。始まりは王道のボーイ・ミーツ・ガールなのだ。ところが、「公衆伝話」という一見すると誤植のようなワードが現れた頃から、世界全体が確実に歪んでいく。SF世界を構築するための王道の方法論は、現実世界にないものを新しく追加すること。だが、それとはまったく異なるアプローチも存在する。現実世界は、別世界の(例えば、高度な科学技術を知らない過去の)人間にとってはSF世界そのものである。とすれば……。

 すべての謎が解かれ、この世界の美しさと残酷さが同等に爆発していくロング・スパートは、まだまだ行ける、この物語はもっともっと先へ行けるという作者の意思と情熱を感じた。あらゆる可能性を手放さず書き尽くす、この握力は、一流の作家しか持ち得ない確かなギフトだ。

 二人の作家の、次の新しい物語が読みたいと素直に思う。雨続きだった夏の鬱屈を晴らす、素晴らしい出会いだった。

新潮社 小説新潮
2017年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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