『署長・田中健一の幸運』
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取材旅行――『署長・田中健一の幸運』著者新刊エッセイ 川崎草志
[レビュアー] 川崎草志(作家)
二年前の夏、編集者から「物語の次の舞台はどこ?」と聞かれた私は、「舞鶴(まいづる)ですかねえ」と答えた。
頭の中にぼんやりと浮かんでいる物語を成立させるためには、主人公の活躍する場を『日本海側の』、『大規模な海上自衛隊基地がある』街とする必要があった。
ただ、最後に舞鶴に行ったのは三十年近く前だ。それで、その年の秋に舞鶴に取材旅行に行くこととなった。
私は取材にはバイクを使う。ちょっと路地の奧を見たいといった場合など、小回りがきいて便利だからだ。そこそこの機動力もある。
しかし、私が住んでいる愛媛県の松山から舞鶴まではずいぶんと距離があった。しかも、私が乗っているのはカブという名の原付バイクだ。二種とは言っても高速道路は走れない。
結局、丸一週間の行程のうち、最初の二日と最後の二日はバイクを走らせるだけということになってしまった。しかも、その間、全ての日で雨に見舞われるという厳しい旅だった。
しかし、交番勤務の地域課の方、所轄署の副署長さん、府警本部の広報の方など、多くの警察官の皆様の話を伺うことができた。他にも取材で得たものは、六つの短編全てに使われることになったし、それなしにはアイデアすらつかめなかったものもある。おかげで、今秋、『署長・田中健一の幸運』というユーモアミステリが刊行されることになった。
やはり、取材旅行は必要なのだ。
次に何を書くかは決まっていない。
ただ、思いついた物語の舞台が青森とか北海道とかになる可能性はある。カブで行ったら、がんばっても片道一週間はかかるだろう。
……飛行機で行って、現地で自転車でもレンタルしようか。……いやいや、何を弱気なことを……などと悩みながらも、地図帳を開いて、走りがいのありそうな経路を調べている。