『妖曲羅生門』
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幽霊探偵は西から東へ
[レビュアー] 高井忍(作家)
昭和六十一年――というからすでに三十一年前の話になるが、「怪奇ミステリーシリーズ」と銘打ち、古典怪奇小説のコミカライズが学習研究社から刊行された。『吸血鬼ドラキュラ』『ジキル博士とハイド氏』、そして『幽霊探偵カーナッキ』の三点である。
「まだかなまだかな、学研のおばちゃんまだかな~♪」
というCMソングがいまでは懐かしい『科学』と『学習』両誌の当時の購読者でなかったなら、買おうとすることも、そもそも存在を知ることすらなかったかもしれない。
いったいどんな判断があってこの三作が選ばれたかは分からない。当時はまだ小学生ながら、筆者は首を捻らされたものだった。「ドラキュラ」と「ジキル博士」はいい。だが、「カーナッキ」という怪奇キャラクターの存在はこの時に初めて知った。実際、W・H・ホジスンによる原作小説は当時にはすでに入手困難のありさまで、長い間幻の作品のまま、「幽霊探偵」ならぬ『幽霊狩人カーナッキ』のタイトルで角川ホラー文庫から出版されて、ようやく読むことがかなったのはコミカライズの刊行から八年が経ってから。かつて『科学』と『学習』に親しんだ小学生だった筆者はとうに受験競争を掻いくぐって大学生活を送っていた。
いまから思えば筆者にとって「オカルト探偵」というものの初体験はこの「カーナッキ」だった。「幽霊狩人」ではない。コミカライズの「幽霊探偵」の方だ。
いずれそのうち日本版「オカルト探偵」モノにチャレンジしたいという思いは前々からあって、それがこのたび、遂に一冊の単行本として結実にいたったことはたいへん嬉しい。
物語の舞台は大陸の西から東へ大移動したが、平安京の「幽霊探偵」の活躍を楽しんでもらえたなら幸いである。