『森の探偵』 宮崎学著 文・構成小原真史

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森の探偵

『森の探偵』

著者
宮崎 学 [著]/小原 真史 [著]
出版社
亜紀書房
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784750515007
発売日
2017/07/03
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『森の探偵』 宮崎学著 文・構成小原真史

[レビュアー] 服部文祥(登山家・作家)

無人装置が写す素の獣

 野生動物が生息する現場に通い続け、時には被写体に敵ではないと認識されるまで時空間をともにし、その上で、決定的な瞬間を捉えてシャッターを押す。そんな、正道とも言える動物写真は狩猟に例えるなら銃猟である。

 だが、カメラマン宮崎が多用する無人カメラによる動物写真は罠(わな)猟だ。

 ケモノ道を歩く小動物を撮るために、最初はテグスをケモノ道に張り、物理的なトリガーで無人カメラのシャッターを切った。

 写った写真は今まで見たことがないものだった。ある意味盗撮がとらえた素の動物たち。人間が肉眼では見ることができない姿である。

 独自の装置がさらに改良され、無人カメラの性能はあがっていく。

 〈写ったものをヒントにして、そこからさらに動物の習性や自然の仕組みについて考える〉宮崎は、人間の生活を巧みに利用したり、うまく距離をとったりして、したたかに生きているケモノたちの姿を次から次に写真に収めた。

 そこから醸し出された自然観は異端にうつる。例えばクマの個体数が研究者が考えるよりはるかに多いと宮崎は早くから指摘していた。また、道に撒(ま)かれた凍結防止剤が野生動物たちのサプリメントになり、健康維持に役立っているらしいことに気がついていた。一人の写真家の意見に耳を傾ける学者は少なかったが、宮崎流無人カメラで撮った動かぬ証拠があるのでブレることはない。

 廃屋にケモノが侵入し、食べ物を物色したり、住処(すみか)にしたりする。畑のゴミ捨て場や養殖場、供え物のあるお墓がクマのエサ場になっている。一体のケモノの死体を長期間にわたり定点無人カメラで捉えた写真も興味深い。

 独自の写真から唯一無二の世界観を持つに至った写真家の半生と仕事をインタビュー形式で紹介する。話にあわせて掲載される、人間にはときに不都合な動物写真も魅力である。

 ◇みやざき・まなぶ=1949年長野県生まれ。『フクロウ』で土門拳賞。『死』で日本写真協会賞年度賞。

 亜紀書房 1800円

読売新聞
2017年9月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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