『ゲノム編集を問う』 石井哲也著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ゲノム編集を問う : 作物からヒトまで

『ゲノム編集を問う : 作物からヒトまで』

著者
石井 哲也 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004316695
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ゲノム編集を問う』 石井哲也著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

遺伝子操作、規制の是非

 遺伝子組換え作物に対する反発は依然として強く、実用面での応用は未(いま)だ限られている。

 そうした中、桁違いに強力な遺伝子操作技術が開発された。ゲノム編集技術である。これは日進月歩の勢いで進展し、これまで不可能だった遺伝子の操作を次々と可能にしている。その結果として今から十年後にどんな世界が生まれているか、誰にも分からないほどだ。

 そこでこの新技術に関する利用ルールの議論が始まった。ゲノム編集に規制は不要だ、とする意見もある。逆に私も主張してきたように、遺伝子組換えよりも強力な潜在能力を持つ技術なので、より高度な規制をすべきだという意見もある。また作物に用いる場合と、ヒトへ応用する場合とでは、問題点が大きく異なるので、これを並列で論じるわけにはいかない難しさもある。しかしいずれにせよ、技術の進展に議論は追いつけていないのが現状だ。今可能なことを前提に議論しても無駄なほど、技術の発展が早いからである。

 著者の石井氏は生命倫理学の立場から、この問題に関してかねてより発言を重ねてきた。本書では、作物に対する応用からヒトの遺伝治療までの現状、将来期待されるメリット、そして危惧を過不足なくまとめている。新生児の体格や能力をデザインすることさえ可能なこの技術、大袈裟(おおげさ)ではなく、将来の世界を左右するものだ。本書の帯にあるとおり、これほどの重要技術に関し、「国民不在、ルール不在でいいはずがない」だろう。となれば、すべての人々がこの技術について理解することが必要だ。本書は緊急発言のせいか、重複、あるいは逆に説明不足な点も散見されるが、今後の議論の助けとしてふさわしい内容となっている。

 今すぐにでも議論を始めないと、技術がルールを追い越してしまうのが目に見えている現状、議論を専門家だけに任せず、是非できるだけ多くの方に読んで、考えていただきたい本である。

 ◇いしい・てつや=1970年群馬県生まれ。北海道大教授。専門は生命倫理学。講演、ラジオ出演も行う。

 岩波新書 780円

読売新聞
2017年9月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加