『北方の王者たち』
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<東北の本棚>藤原四代 等身大に描く
[レビュアー] 河北新報
平安時代の平泉を舞台にした奥州藤原氏の栄枯盛衰を描く。史実に基づきながらも、著者の豊かな想像力を交えて、清衡、基衡、秀衡、泰衡の志や知恵、葛藤を浮き彫りにし、壮大な人間ドラマにまとめ上げた。戦乱の世にあって、極力、戦いの道を避け、内政の充実と外交、経済によって約100年の栄華と平和を保った奥州藤原氏の崇高な精神性が際立つ構成だ。著者の奥州藤原氏に対する尊敬と追慕の念が強く伝わってくる。
奥州藤原氏は後三年の役(1083~87年)の後から、源頼朝に滅ぼされるまでの約100年間、平泉を中心に東北一帯に勢力を誇っていた。本書では4代にわたる奥州藤原氏の生きざまを、それぞれの功績と人間性に焦点を当てて描いた。英雄物語ではなく、それぞれの役割を果たそうとする労苦や迷い、悩みなど等身大の人間のままならない内面に迫ろうとした。中でも代々、受け継ごうとした平和を求める精神性を軸に据えている。
清衡の章では、憎しみの連鎖となる戦乱に終止符を打ち、東北人による東北の統一に粉骨砕身した様子を描いた。基衡については、清衡の残したものを発展させ、中央(都)に勝るとも劣らない都市づくりに取り組んだ背景を書き込んだ。秀衡の章では東北と中央の協調や源義経との因縁の関係、泰衡の章では奥州合戦で追い詰められた為政者の悲劇を緊迫感あふれる筆致でつづった。
「平安時代後期の奥羽の地で、堂々と中央に対峙(たいじ)し、100年に及ぶ空前の平和と繁栄を実現したことは、決して色あせることのない歴史的偉業として後世に伝えられた」と、著者は物語を結んでいる。
著者は1968年群馬県みなかみ町生まれで同町在住。東洋大文学部中国哲学文学科卒。介護福祉士の傍ら、小説の執筆をしている。
文芸社03(5369)2299=1620円。