【聞きたい。】中田考さん 『帝国の復興と啓蒙の未来』

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帝国の復興と啓蒙の未来

『帝国の復興と啓蒙の未来』

著者
中田 考 [著]
出版社
太田出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784778315856
発売日
2017/07/18
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】中田考さん 『帝国の復興と啓蒙の未来』

[レビュアー] 産経新聞社


中田考さん

 ■「領域国民国家は限界」

 混沌(こんとん)とした世界。われわれはどんな未来像を描きうるのか-。本書はイスラムの側から人類のために実現可能な未来像を提示する。

 現在の混沌は「近代西欧の啓蒙(けいもう)のプロジェクトの最終的破綻の過程」と中田さん。異なる国民によって人類が別個の国家に切り分けられるべきだと考える領域国民国家システムと、すべての人類は自由で平等に人権を有するという価値観は本来相いれない。その矛盾が西欧のシリア難民受け入れ拒否によって可視化されるようになった。そのかたわらアメリカの衰退は、ロシアと中国の領域国民国家の枠を超えた世界帝国復興の野望に火を付けた。

 「世界の安定には、西欧と北アフリカ、地中海東岸のムスリム諸国が同盟して『古代ローマ帝国』を再興し、英米・ロシア・中国と均衡関係を構築するのがもっとも望ましい」

 中田さんの主張はこうだ。

 まず、イスラム世界でカリフ制(イスラム共同体から選任されたカリフの下、全ての領域がイスラム法によって治められる)を再興し、西欧が引いた国境を廃し、イスラム法の支配の下にヒト、モノ、資本の自由な移動が保証される空間を再興する。カリフ制再興が成功すれば、西欧にも影響が及び、ナショナリズム(民族主義/国家主義)の虚構性、領域国民国家の欺瞞(ぎまん)に人々は気付き始める。

 いま目が離せないのはトルコだという。民主的手続きにのっとった漸進的なカリフ制再興をめざすエルドアン大統領だが、クーデターで倒される可能性がある。そうなるとシリアの比ではない難民が欧州になだれ込む。そのとき各国はどう対処するか。国境という牢獄(ろうごく)の檻(おり)の扉を閉ざしてしまうのか…。

 「西欧文明の病理であるナショナリズムを消滅させない限り、人類に未来はありません。カリフ制はそのカギとなるはず」(太田出版・2500円+税)

 桑原聡

   ◇

【プロフィル】中田考

 なかた・こう 昭和35年生まれ。東大大学院修士課程修了後、カイロ大大学院博士号取得。クルアーン釈義免状取得。著書に『イスラームの論理』『カリフ制再興』『イスラーム入門』など。

産経新聞
2017年9月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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