カリスマホストに託された見知らぬ赤ちゃん “変革”描くイクメン小説

レビュー

4
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キッズファイヤー・ドットコム

『キッズファイヤー・ドットコム』

著者
海猫沢 めろん [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062206747
発売日
2017/07/26
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

カリスマホストが育児に挑戦、痛快さの中にある真実

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 育児は過酷なキャンプみたいなものだ。食事もトイレも自由にならず、寝不足状態のまま、言葉の通じない赤ん坊の気持ちを汲んで、涙の要求に応え続けねばならない……妹に子どもが生まれて、初めて知ったことだった。

 表題作はカリスマホストがひょんなことから育児をすることになり、育児の資金をクラウドファンディングで稼ぐことを思いつく。荒唐無稽にも見える設定が、読むうちにジワジワと骨身に沁みてきた。

 歌舞伎町のホストクラブの店長・白鳥神威(かむい)が帰宅すると、自宅前にベビーカーが置いてあり、その中には赤ん坊がいた。神威宛ての置き手紙があるが、母親の見当はまったくつかない。育てる決意をした神威は、ホストクラブ経営と育児の両立を図るため、育児をプロジェクト化し、その資金をネット上で広く呼びかけるソーシャル子育てを提案する。

 普通の小説なら、ともかく生みの母親を探すところだが神威はそうしない。彼は母のいない家庭で育ち、父もまた本当の父なのかわからない。それでも立派に成長し、自立している。実の親がいなくても子どもは育つことを、自らの手で実践、証明しようとしているのだ。

 ホストクラブの客であるシングルマザーが「子どもは愛の結晶」と言う場面がある。彼女自身、育児を一人で抱え込み、ストレスを抱えてホストクラブへやってくるのだが、頑張ることをやめられない。

「赤ん坊は良いものであり、それを愛するのは当然である」という世間の常識に囚われて、自分がすり切れるまで頑張ろうとする痛みが伝わってきた。

 後半の一編『キャッチャー・イン・ザ・トゥルース』は前作から六年後、ソーシャル子育て革命のその後が描かれる。東京オリンピックは中止になり、その予算は保育園整備と、子育て世代の補助金としてばらまかれた。都知事となった神威の仕業だ。

 一方、生まれたときからネット上ですべてをさらした生活を送る神威の子ども・KJ(カムイジュニア)はある計画を立てていた……彼に残された権利をしっかりとつかみ取るために。

 愛はなくとも、寄付という親切で子は育ち、血は繋がってなくても、信頼した仲間が家族になる。そんな未来はもう実現可能だ。それでも人は正解がない子育ての答えを求めてしまう。混沌とした思いをそのまま受け止めるラストシーンに掬われる思いがした。

新潮社 週刊新潮
2017年9月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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