整理整頓はムダ? 非常識とも思える「本質の思考法」とは

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整理整頓はムダ? 非常識とも思える「本質の思考法」とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

整理整頓をしない人ほど、うまくいく。超一流だけが知っている「本質」の思考法』(中山マコト著、きずな出版)とは大胆なタイトルですが、著者によれば、これは「人生を謳歌する秘訣」なのだそうです。正確には、こうした発想を持つことが、自由な人生を生きるために必要だということ。つまり本書に書かれているのは整理整頓の仕方ではなく、よりよい人生を生きるための考え方だというわけです。

とはいえ、著者は具体的にどのようなことを伝えようとしているのでしょうか? なぜ、整理整頓しない人ほどうまくいくのでしょうか?

大切なのは「快適な部屋に、定型はない」ということです。(中略)ここだけの話、私は秩序恐怖症です。きちんと整理された書類棚や、すっきりと片づいたデスクではまったく落ち着かなくて仕事になりません。むしろ、ぐちゃぐちゃな環境にこそ考える“ヒント”があると思っています。一般的には「散らかっている」と言われそうなくらい乱雑な空間が好きですし。そのほうがいい仕事につながります。(中略)

断捨離が流行したり、整理整頓・片づけの本がベストセラーになったり、最近はムダの排除をよしとする風潮がありますが、はたしてそれは真実でしょうか?(中略)大好きなものに囲まれているから、眺めているだけで脳がいい意味で活性化します。そこからいい考えが浮かぶのです。

整理整頓ができている、ありきたりの空間からは、ありきたりのアイデアしか出ないと言っても言いすぎではないでしょう。

つまり「片づいていることがいいことだ」という風潮に踊らされることによって、逆にそれが自分の可能性を潰してしまっていることもあるということなのです。(「Prologue—アイデアは、散らかった部屋で降りてくる」より)

個人的には整理整頓された空間でないと落ち着けないので、全面的には肯定できないのも事実。が、その一方、誰もが当たり前のように(思考停止状態のまま)信じていた“常識”を覆すという意味において、スタンスそのものには共感できる部分もあります。Chapter 4「尖ったスキルで、突破せよ!」から、いくつかのトピックスを抜き出してみたいと思います。

3ステップ伝達術

著者はこの項で、「人前で話をするときに効果的な3ステップ」を紹介しています。

1. これから何を話すかを話す

2. 話す

3. 最後に何を話したかを話す

(102ページより)

たしかに、講演やプレゼンテーションの冒頭に、「本日はこのテーマで話します」「こういう流れで話します」と前置きをするのが効果的だというのは有名な話。そう言われると聞き手は、「この話があるんだな」と心構えができるということ。つまり、軽い準備運動のようなものだと著者は表現しています。

次は、本論に入り、前置きした話題をきちんと話す段階。そして最後に、「本日はこういう話題について話しましたが…」と講演内容やプレゼンテーションのポイントをおさらいする。長い講演で聞き手の集中力が途切れていたとしても、締めくくりに振り返ることで、大事なメッセージがインプットされやすくなるということです。

私は勝手に“ファイナルフレーズ”と名づけていますが、人は最後に耳にした言葉は忘れ難いもの。要は印象を支配するのです。(103ページより)

3ステップの手法であれば、合計3回同じ話をすることになります。しかし、1回しか言わない場合や、ダラダラと繰り返す場合とくらべ、聞き手の理解度は格段に上昇するのだそうです。

ポイントは3回繰り返すこと。人間にとって「3」は非常に親和性が高い数字です。

「日本三大○○」とか「三三七拍子」とか「三人寄れば何とか」とか。3が組み込まれたフレーズは枚挙にいとまがありません。(104ページより)

講演やプレゼンテーション以外でも、この3ステップを意識することで、伝えたいことが伝わるようになるといいます。(102ページより)

ビジネスにアイコンタクトなどありません

ビジネスは誰かと関わりながら進めていくのが一般的であり、ひとりで完結させられるものはきわめて稀。つまり私たちは、見えない場所で必ず誰かとつながっているということで、それは疑いようのない事実だと著者は記しています。

だからこそ、ほかの誰かと協力しあいながら進める共同作業は、お互いが自分の思っていることをきちんと伝えない限りうまくいかないわけです。「全部言わなくてもわかってくれるだろう」「きっと伝わっているはず」というような思い込みは厳禁であり、ビジネスにアイコンタクトなどあり得ないということ。

スポーツでアイコンタクトが成立するような言い方をしますが、それは長い時間一緒に練習し、山のようなケーススタディから、相手が次はこう動くというデータベースがあり、そこへアクセスしているからできること。

目と目で通じ合うなどという“オカルト”はあり得ないのです。

仮にそれを信じてやってみたとしても、その先に待ち受けているのは失敗です。(113ページより)

自分の意思を表明することなく、相手の意思も確認しないのであれば、たくさんの勘違いやムダが生じるもの。しかも、ありきたりな言葉だけではすべてが伝わらないので、細かなニュアンスや微妙な中身を伝えきることが重要なカギになります。それができていないと、「そういうつもりで言ったのではなかったのに…」というようなことが日常的に起こってしまいかねません。どんなに親しい間柄であっても、意図したとおりに伝わるとは限らないということ。

自分の考えを相手に伝えることは難しいという前提に立ち、まずは言葉で伝える努力をしましょう。そう……言わないことは聞こえないのです。(114ページより)

ひとつの言葉、一行の文章でもいろいろな解釈ができるので、ビジネスにおいては曖昧さを排除し、的確に伝えることを重視すべき。そして、意図したことが伝わっているかどうかを確認する。そうした性格なパスを重ねることで、コミュニケーションは円滑になるのだといいます。(112ページより)

ビジネスはオセロに学べ!

物事にはすべて、優先順位があるもの。「どれからでも結果は同じ」などということは決してなく、順番はとても重要。ある一手を打つことで一気に事態が好転し、ほかのことは実行しなくても望む結果が得られるということも十分にありうるということです。それは、「勝利を手繰り寄せる一手」という意味においてオセロに似ていると著者。

一見すると劣勢のようでも、パシッと四隅を取ったらパタパタと石がひっくり返って行き、形成逆転して大勝利を収めるというようなイメージです。

これと同じことが、ゲアリー・ケラー/パパザン著『ワン・シング』(SBクリエイティブ)にも書いてあり、「常になすべきことはひとつだ。その一点突破に集中せよ」と提案しています。

要は、たったひとつのことを実現することで、ほかのことをしなくてもよくなるキーポイントがあるということなのです。(113ページより)

たとえば、インターネット通販事業を始めるとします。しかし、「いいものをつくれば売れるはずだから、売るものをつくるところから始めよう」などとは考えないもの。いいものをつくれば売れるというのは幻想にすぎず、売れる商品が欲しいのであれば、仕入れるという選択肢もあるのですから。そんなことよりも、インターネット通販事業の成否を分かつのは「顧客リスト」。いかにして買ってくれそうな見込み顧客にリーチするかということです。

5000人にアプローチして1000万円を稼げるとしたら、1万人の顧客リストがあれば2000万円を稼げることになります。ネット通販はある程度まで比例関係で売り上げを見込むことができるため、見込み顧客リストが大事だということ。 

だとすれば考えるべきは、「それをどうやって入手するのか?」ということ。リストを持っている人と協業するのもいいでしょうが、やみくもに手を出したところで結果が出ないのは明白。それで流行っていることの大半が徒労に終わってしまうから、「もっと簡単で、しかし抜群の効果がある一手とはなんだろう?」と考えてみる。すべてにおいて、そういう視点を持って物事に向き合うことが大切だということです。(123ページより)

著者は、フリーランスの広告・販促プランナー、コピーライター。前著『9時を過ぎたらタクシーで帰ろう』の延長線上にある本書においては、自身が考える思考法を紹介しているわけです。簡潔で読みやすいので、情報でいっぱいいっぱいになった頭をブラッシュアップしたいのなら、読んでみる価値はありそうです。

メディアジーン lifehacker
2017年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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