一生忘れられないドキドキ体験…“初めてのひとり旅”『ようかいでんしゃ』ナカオマサトシさん×ドーリーさんインタビュー

インタビュー

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ようかいでんしゃ

『ようかいでんしゃ』

著者
中尾, 昌稔, 1982-ドーリー, 1986-
出版社
ポプラ社
ISBN
9784591155318
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

幼いころの経験が一生の思い出になる。『ようかいでんしゃ』ナカオマサトシさん×ドーリーさんインタビュー

[文] 椋鳥

憧れの人とのデートや、行ったことのない外国への旅行など、初めて体験する出来事は何歳になっても新鮮で、忘れられない思い出として心に残ります。それが幼いころの初体験となると、なおさら鮮やかな色をもって記憶に刻まれますよね。
2017年8月に刊行された絵本『ようかいでんしゃ』の主人公 “ぼく” は、「おじいちゃんの家に一人で遊びに行く」という初体験をした一人。しかし彼は思いがけず、ちょっぴり怖くて、でも優しく愉快な妖怪たちに出会うことになったのです。

本作品を手掛けたのは、『うれないやきそばパン』(富永まい・文、いぬんこ・絵、金の星社)で絵本作家としてデビューを果たし、その後も続々と絵本を発表して活躍されているナカオマサトシさんと、『どうぶつまぜこぜあそび』(サトシン・さく、そうえん社)などで活躍中のドーリーさん。お二人は『ようかいでんしゃ』の刊行を記念して8/12にはトークショーを開催し、制作秘話やナカオさんによる読み聞かせ、ドーリーさんの即興絵本づくりなどを披露してくださいました。
またトークショーの途中には、ナカオさんが考えた『ようかいでんしゃ』のオリジナルソングを、アコーディオンの生演奏と共に会場の皆さんで歌い上げる場面も。関西出身のお二人による楽しいトークショーは、ドーリーさん直筆のイラストを懸けたじゃんけん大会を最後に、大盛況のうちに幕を閉じました。

8/12には神保町・ブックハウスカフェにて、関西出身のナカオさんとドーリーさんによるおたのしみトークショーが開催されました
8/12には神保町・ブックハウスカフェにて、関西出身のナカオさんとドーリーさんによるおたのしみトークショーが開催されました

今回は作者のナカオマサトシさんとドーリーさんに、『ようかいでんしゃ』制作のきっかけや子どもの頃の思い出、作品に込められた思いについて、お話をお伺いしました!

ナカオマサトシさんとドーリーさんに、制作秘話や幼少期の思い出、作品に込めた思いなどについてお伺いしました
ナカオマサトシさんとドーリーさんに、制作秘話や幼少期の思い出、作品に込めた思いなどについてお伺いしました

──今回刊行されました『ようかいでんしゃ』は、大人の私も大変楽しく拝読させていただきました! 本作品は主人公 “ぼく” が体験する初めての冒険のドキドキや、妖怪たちの怖さ、愉快さが描かれていますが、作品制作のきっかけはあったの
でしょうか?

ナカオさん──『ようかいでんしゃ』はホラーな物語ではないのですが、主人公の “ぼく” が最初に体験するように、ある種ちょっと怖いお話なんです。でも子どもにとっての怖いお話って、衝撃的というか、エンターテインメントというか、怖いのに聞きたくなる要素があるんですよね。僕も小学生の時には、夜寝る前に思い出すと怖くなって眠れなくなるのが嫌なくせに、先生が「今から怖いお話するよ」と言ってくれた時には、すごくうれしかった(笑)。しかもいまだに話してくれたお話を覚えているんです。その時の授業や先生の顔は覚えていないのに、絵のイメージだけはあって……そうやって記憶に残るような怖さと、僕の地元である和歌山県のきれいな景色を、絵本に詰め込めたら良いなと思いながら、『ようかいでんしゃ』は作らせていただきました。

──怖いお話には、確かに妙に惹きつけられる不思議な魅力がありますよね。ナカオさんは和歌山県ご出身とのことですが、なぜ舞台に和歌山の地を選ばれたのか教えていただけますか?

ナカオさん──僕のイメージだと和歌山県って関東の方からしたら、あまり馴染みのない場所だと思うんです。でも僕は和歌山の地で生まれ育って、毎年お父さんと一緒におじいちゃんとおばあちゃんが住む、龍神村へ遊びに出掛けるのが楽しみでした。僕が当時住んでいた田辺市から隣のはずなのに電車が無くて、車だと2時間半くらい掛かるし、車酔いも毎年起こす(笑)。そんな行くだけでも大変な場所ですけど、着くと原風景がパーッと目の前に広がって空もすごくきれいで……こののどかな村に電車が走っていたらうれしいなと思ったのが、舞台に選んだ始まりでした。あとは東京だと原風景や、のどかな景色に触れられる機会が少ないと思ったので、絵本でそれを感じていただきたいなという気持ちも込めています。

トークショーでは、プロジェクターを利用して投影された大きな絵本を用いて、ナカオさんが『ようかいでんしゃ』の読み聞かせを行ってくださいました
トークショーでは、プロジェクターを利用して投影された大きな絵本を用いて、ナカオさんが『ようかいでんしゃ』の読み聞かせを行ってくださいました

それと担当編集者さんから、「表紙と裏表紙の見返し見開きは路線図にしようよ」と提案をいただいた時には衝撃が走りました。この路線図だけでも楽しくて1時間は遊べそうですし、龍神温泉は本当にあるから入ってみたくもなる。ここに出てくる駅は僕が考えたんですが、その時に電話で僕のお父さんに思い出にある龍神のイメージはどんなものかを聞いたんです。そしたらよく夕立が降って、ふくろうが鳴いていて、サルも出てくるよって言われて……龍も出てきそうな景色が確かに広がっていたなって思い出しました。他にも当時住んでいた家の近くには二ツ池があったり、田辺市から入れる参詣道の熊野古道に奇絶峡という嘘みたいな名前の谷があったり、手つかずの自然がたくさん残っているんです。そして、実在する地名と架空の地名をあわせた空想上の路線図を考えました。そして、ドーリーさんに完成させてもらって、出来上がった路線図を見た時にはびっくりしました!

表紙と裏表紙の見返し見開きには、 “ぼく” が乗車した電車「きのくに龍神線」の路線図を掲載。いたるところに隠れている妖怪を探し出すのも楽しそう
表紙と裏表紙の見返し見開きには、 “ぼく” が乗車した電車「きのくに龍神線」の路線図を掲載。いたるところに隠れている妖怪を探し出すのも楽しそう

──絵本に出てくる地名「龍神村」が実在することに驚きですが、そんな素敵な場所にぜひ遊びに行ってみたいです! 『ようかいでんしゃ』に出てくる地名は実在する場所がモデルとのことですが、ドーリーさんは風景を描く際に特に注意した点や苦労された点はありましたか?

ドーリーさん──私は最初にイラストのお話をいただいた際に、ナカオさんから和歌山県出身ということを教えてもらっていたので、旅行ついでに和歌山まで遊びに行きました。大阪住まいだと和歌山は割とすぐに行けるので、一枚岩や川湯温泉、龍神村にも足を運びたいなと思って出掛けたんです。でも実際の龍神村は電車が走っていないから、代わりにきのくに線(紀勢本線)に乗って雰囲気を味わいました(笑)。それから龍神村はナカオさんがお話していたように結構遠いですし、行ってみたら意外と何にもなくて!(笑)。だから一枚岩が広く見える場所や、おどろおどろしい印象がある高野山の奥の院などを見て回って、“昔ながら”というイメージでイラストは仕上げていきました。

それから私は今回、夕方らしい夕方と夜らしい夜を描かせていただいたのですが、どんな色使いにしたら良いのかが全然わからなくて大変でした。普段は『ようかいでんしゃ』に出てくる妖怪たちみたいな、明るい色をそのまま使うことが多いので今回は本当に困ってしまって。夕方に外へ出たり、ライトが当たったらどんな感じになるのかを見たり、いろいろ観察しながら描きました。

ドーリーさんが難しかったと語る夜のシーン。静けさを感じる山々の様子や、駅のわずかな明かりが、田舎の懐かしい風景を思い起こさせてくれます
ドーリーさんが難しかったと語る夜のシーン。静けさを感じる山々の様子や、駅のわずかな明かりが、田舎の懐かしい風景を思い起こさせてくれます

あとは主人公の “ぼく” が電車に乗る時に使っていた駅は、私が昔に使っていた萱島駅がモデルになっています。萱島駅は大きなクスノキがホームの真ん中に茂っていて屋根も突き破るほどの高さがありますが、近所にある萱島神社の御神木なので駅を造る時に伐採せずに残しておいたそうなんです。だから本当だったらモデルは田辺駅にしないといけないんですけど、御神木というのが妖怪チックだなと感じたのと、ナカオさんが地元をモデルにしているなら、私もこっそり自分の懐かしい地元を入れたいなと思いまして大阪にある萱島駅を勝手に入れさせてもらいました(笑)。

──一枚岩の近くを夕焼けに照らされた電車が走る姿は、何回読んでも印象的ですし、大人が読んでも郷里を思い出させてくれる素敵なシーンですよね! 今回登場した妖怪たちの中には、天狗や雪女、ろくろ首などがいますが、みんな個性的で友達になりやすそうだなと感じました。デザインをした際に時に気を遣ったことはありましたか?

ドーリーさん──作品に出てくるおもな妖怪については、ナカオさんから指定をいただいていたのですが、どの子もみんなが一度は見たことのあるような子たちばかりだったので、広く知られているイメージを崩さないよう気を付けて、改めてデザインを作り上げました。それ以外の妖怪については、私のオリジナルです。課題や誰かに見せるために始めた訳ではないのですが、学生の時からずっとオリジナルの妖怪を描き続けて……たまたまダンボールに描いていて、全部それを切り抜いて集めていたら200枚くらいになっていたので、いつかどこかで使えないかなと考えていたんです。そしたらナカオさんから『ようかいでんしゃ』の話をいただいて、これは登場させるチャンスだと感じました(笑)。あと、今回の作品は妖怪たちが最初の方はちょっと怖いので、あまり怖いイメージだけが残らないように意識しました。私自身、怖いのはあまり好きじゃないですし、子どもの時に読んだ絵本はイメージだけでも頭に残るので、できるだけ楽しく、妖怪は怖いだけじゃなくて面白いんだよ、と気持ちを込めながら描きました。

8/7~8/18の期間中、東京・千駄ヶ谷にあるランドリーグラフィックスギャラリーにて、ドーリーの「ようかいが電車に乗ってやってきた!」展が開催されました
8/7~8/18の期間中、東京・千駄ヶ谷にあるランドリーグラフィックスギャラリーにて、ドーリーの「ようかいが電車に乗ってやってきた!」展が開催されました

──学生時代から描き続けてきた流れが、いま作品に生きているのは素晴らしいと思います! 今回の絵本は、主人公の “ぼく” が初めて一人でおじいちゃんの家に向かうという、ある種冒険的な要素も含んでいると思います。ナカオさんは、“ぼく” のように大冒険をした経験はありますか?

ナカオさん──僕は3人兄弟なんですけど、一番上に6歳離れたお兄ちゃんがいて、その次に3歳離れたお姉ちゃんがいるんです。でも一番上のお兄ちゃんは、僕が小学生の時に大学へ行くので地元を出て行ってしまって。だからお兄ちゃんの家に遊びに行くときは、まさに “ぼく” のような感じでしたね。切符を買って、一人で電車に乗って、しかもお兄ちゃんの家まで2時間半から3時間掛かっていたので、当時の僕にとっては本当に大冒険でした。特急電車の2人並び席に座っていたら、隣の人から「どこまで行くの?」と話し掛けられるし、自分の座席がこの番号で本当に合っているのか不安にもなりました(笑)。おまけにお兄ちゃんの家に行くことが目的だったのに、着いて何をしたかよりも、ソワソワドキドキした一人旅の記憶の方が残っているんです。『ようかいでんしゃ』のお話は、それと近しい記憶の物語なのかもしれないですね。

主人公の “ぼく” は妖怪だらけの電車に間違えて乗車。人間だとバレてしまわないか不安でいっぱいです
主人公の “ぼく” は妖怪だらけの電車に間違えて乗車。人間だとバレてしまわないか不安でいっぱいです

それと僕が感じるのは、今も昔も、一日のあっという間に過ぎていく一瞬一瞬が子どもたちにとっては奇跡なんだということ。トンボが空を飛ぶことだって、物がテーブルの上に存在していることだって、僕らが想像するSFの世界と同じ。多分子どもたちには、日常が何が起こっても不思議じゃない世界のように見えているんだと思います。そしてその大切な一瞬一瞬に、僕は絵本を届けたい。子どもたちが一日にいくつもの奇跡体験をしているところに、絵本をそっと楽しんでもらいたいんです。

──子どものうちにしか感じることのできない奇跡を、絵本という形で届けられるなんて素敵なことですね! ドーリーさんはご自身のイラストを通して子どもたちに伝えたいことや、見てもらいたい点はありますか?

ドーリーさん──絵本作家さんには伝えたいものが明確な方や、純粋に子どもたちのために描くという方など、いろんな作家さんがいますが、私の場合は、見ててただ楽しいなって思ってもらうだけでも良いと思っています。いろんな絵本がある中で、誰かのお気に入りになれるような絵が描けたら良いなと思いながら、いつも描いています。でも一番は、私のお父さんとお母さんに褒められたら良いなという気持ちで描いています(笑)。褒めてくれない訳ではなくて、いつも褒めてくれるんですけど、身近な人に喜んでもらえるような絵をこれからも描き続けていきたいです。

トークショーでは、遊びに来てくださったお客さんの声を基に、ドーリーさんが即興で絵本作りを披露! 最後には色も付けて、世界に一つの物語が出来上がりました
トークショーでは、遊びに来てくださったお客さんの声を基に、ドーリーさんが即興で絵本作りを披露! 最後には色も付けて、世界に一つの物語が出来上がりました

──ドーリーさんが描く豊かな表情がいっぱいの妖怪たちは、きっとたくさんの人の“お気に入り”になっていくんでしょうね。それでは最後になりますが、『ようかいでんしゃ』を手に取る読者の方へお二人からそれぞれメッセージをお願いします。

ナカオさん──僕は初めて一人で近くのコンビニへ買い物に出掛けた時、自動ドアが開かなくて、こんな難しいお使いを頼むなんて、と親を少し恨んだ経験があります(笑)。お金を持って道を渡るだけでも、初めての時はすごく怖いんです。でも、一人旅には絶対最初の一歩目があると思うので、勇気を出して踏み出してほしい。たとえ妖怪じゃなくても、周りには助けてくれる人たちがたくさんいますし、悪い人ばかりではなく楽しみながら一緒に進んでくれる人もいます。この絵本には都会では見られないような景色がたくさん載っているので、主人公の “ぼく” になったつもりで「ようかいでんしゃ」を楽しんでから初めての一人旅に挑戦してほしいです。

ドーリーさん──この絵本には昔の人が作った妖怪がたくさん出てきますが、読み終わったら自分だけのオリジナル妖怪を考えて描いたりするのも楽しいかなと思います。いろんな遊び方を自分で見つけ出して、どんどん楽しんでいってもらえたらうれしいです

──ナカオさん、ドーリーさん、ありがとうございました!

ポプラ社
2017年10月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ポプラ社

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