アイデアは天才でなくても生み出せる。考えるための基本フレーム「リボン思考」とは?

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アイデアは天才でなくても生み出せる。考えるための基本フレーム「リボン思考」とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

東大の教養学部で学生が殺到する授業が、「ブランドデザインスタジオ」(通称:考える力の教室)。「過去を知る学び」を得意とする東大生に「新しいものを生み出す思考法」を体系的に学ばせたいという思いから、2011年にはじまったのだそうです。

きょうご紹介する『東大教養学部「考える力」の教室』(宮澤正憲著、SBクリエイティブ)は、その授業を書籍化したもの。新しいものを生み出すための思考フレームを、わかりやすく紹介した内容になっています。

社会に出ると、答えが1つと決まっていて、正解に答えられれば合格、という場面はほとんどありません。99%の仕事は、正解のない問いにみんなで挑むスタイルで進めているのです。(中略)仕事の現場は、「正解のない問い」にあふれているのです。(中略)つまり仕事とは、「『正解のない問い』に『共に挑む』」ことが常に求められているのです。(3ページより)

「正解のない問い」であったとしても、基本フレームさえ使いこなせれば、考えることができるのだといいます。そこで本書は、新しいものを生み出す考え方のフレームを伝えることを目的としているわけです。

「リボン思考」とは?

「これまでアイデアを考える力は、一部の才能のある人の特権とされてきた」という事実を著者は指摘しています。いわゆるアイデアマンと呼ばれる人たちがそれ。彼らは経験上、暗黙知で新しいことを考える力を持っているため、周囲の人たちからは特別な才能があると見なされてしまっているというのです。しかし、アイデアのようなことを考える力とは、天賦の才能で決まってしまうものではないはず。つまり考える力は、誰でも訓練すれば向上させられるということです。

そう主張する著者は、この考えるための基本フレームを「リボン思考」と読んでいるのだそうです。リボン思考を身につけると、新しいものをつくる力や、企画アイデア力だけでなく、人生のあらゆる局面で必要とされる次のような力を鍛えることができるというのです。

伝える力——面接・プレゼン・自己PRの力が上がる!

よくあるエントリーシートの失敗例は、幕の内弁当のような完璧なものだと著者はいいます。たとえば、「リーダーシップがあって、友だちがたくさんいて、クリエイティビティがあって…」という具合。自分自身のコンセプトが明確でないため、総花的になってしまうというのです。しかしそれでは、相手に「どういう人なのか」がまったく伝えらなくて当然。

しかしリボン思考を使えば、自分自身の本質を掘り下げ、1つのコンセプトに沿って、ストーリーを描けるようになるのだといいます。その結果、見違えるように、他の人に伝わりやすくなるということ。学生でもビジネスパーソンでも、簡潔に、わかりやすく、魅力的に自分をアピールする場面は少なくないもの。そういう場面にも、リボン思考のフレームが役に立つというのです。

グループで話す力——打ち合わせ・グループディスカッション力が上がる!

著者の授業でリボン思考のプロセスを体験している学生は、グループディスカッションがとても上手なのだそうです。

「自分を含めて参加者全員がバランスよく発言できているか?」

「結論までいける時間の使い方ができているか?」

「お互いをつぶし合うコミュニケーションではなく、お互いの意見を重ね合う共創のコミュニケーションになっているか?」

といったことを踏まえたうえで、ディスカッションを勧められるからだというのがその理由。しかしその一方、こうした基本技術を持たないまま、会社や打ち合わせに臨むビジネスパーソンが多いのも事実なのだといいます。

書く力——論文・レポート・議事録がうまくなる!

よい論文は、主張が明確で、目的や結論にオリジナリティを感じさせると著者。最後まで読みたいと思わせる、一貫した流れがあるということです。

本質を掘り下げ、1つのストーリーを描くスキルを手に入れることができるリボン思考は、論文作成にも大きな効果を発揮するのだそうです。ビジネスの現場においても、企画書や提案書を作成する機会は少なくありませんが、リボン思考はそういった「書く仕事」にも役立つというのです。

(以上、9〜13ページより要約)

しかし、そんなリボン思考とは、そもそもどのようなものなのでしょうか? 

著者によれば、新しいことを考えるためには、まず、広く、深く、たくさんの素材を集めることが大切。そのうえで、徐々に絞り込んでいくべきだという発想です。すなわち、それがリボン思考。下の図を見ていただくと、その考え方と流れが理解できるのではないでしょうか?

なにを、どう集めるか?

新しいものを考え出すプロセスは、魅力的な料理をつくるプロセスに似ていると著者は表現しています。そして、そのなかで特に重要なのは、良質なインプット。つまり料理でいえば、素材にあたるわけです。よい素材を集めることができれば、調理や演出にあまり手をかけなくても、おいしい料理になるということ。新しいものを考え出すことについても、まったく同じことがいえるという考え方です。

しかし、ここで重要なのは、素材の「集め方」自体がクリエイティブであるべきだということ。「なにを集めるか? どう集めるか?」という段階から楽しいアイデアを盛り込んでいくと、独創的なアウトプットにつながる可能性が高くなるというわけです。テーマ(料理でいえば「メニュー」)を決め、情報(料理でいえば「よい素材」)を探す。これが情報収集(インプット)。(38ページより)

コンセプトづくりのプロセスもクリエイティブに

コンセプトの由来は、ラテン語の「con(しっかりと)+capere(つかまえる)」なのだそうです。

いうまでもなくコンセプトは考える行為の肝であり、料理にたとえるなら調理にあたります。「素材をどう調理するか?」と、切ったり、似たり、焼いたりする工程だということ。

そして、ここで重要なのは、「コンセプトのつくり方に、決まった手順はない」ということ。どう組み合わせるかは自由であり、つまりコンセプトづくりのプロセスもクリエイティブであることが重要だという考え方。そのため、頭で考えるだけでなく、実際に書いて身たり、とにかくやってみる。それこそが、よいコンセプトの考えに至るポイントだといいます。(114ページより)

アイデアにもう一段ジャンプを!

アウトプットは、料理にたとえるなら最後の演出。いわば、盛りつけやシーズニングにあたるということです。

インプット(素材集め)とコンセプト(調理)においては、できあがりつつある料理を、最終的な形へと仕上げていくことになります。それらに告ぐアウトプットのプロセスで行うのは、「広げて具体化する」という作業。ギュッと絞り込んだコンセプトを広げ、形にするわけです。その際に重要なのは、単に広げるだけではなく、考えをもう一段ジャンプさせることだといいます。

東京大学で授業を行っている一方、著者は普段、博報堂でクライアントの問題解決にも携わっている人物でもあります。

つまり「いかに独創的なアイデアを出すか」「いかにイノベーションを起こすか」「いかに魅力的なコンセプトにたどり着くか」などを日々の仕事にしているわけで、だから本書の内容には大きな説得力があるのです。考える力を身につけたいのであれば、ぜひとも読んでおきたい1冊だといえるでしょう。

メディアジーン lifehacker
2017年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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