『機龍警察 狼眼殺手』
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アクションだけじゃない これぞ警察小説の最前線
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
『機龍警察』から始まるシリーズの長篇第五作。表題の“機龍”とは、機甲兵装─マンガやアニメでお馴染み『機動警察パトレイバー』のような大型のパワードスーツに人が搭乗する二足歩行型軍用有人兵器を指す。本書はその機甲兵装の最新鋭・龍機兵(ドラグーン)を擁する警視庁の新設部署・特捜部の活躍を描いた近未来警察小説にして冒険小説なのだ。
もっとも機甲兵装による犯罪が多発する中、龍機兵という秘密兵器の存在をおおっぴらにしたくない特捜部は何かと秘密も多く、他の部署からは疎(うと)まれていた。龍機兵の搭乗要員である三名もふたりは外国人で、しかもIRF(IRAから分裂した過激派)の元テロリストとモスクワ民警を冤罪で追われた元捜査官といういわくつきのキャラクター。
本シリーズはその搭乗要員たちの数奇な軌跡を軸に展開してきたが、それと並行して警察を陰で操る謎の組織─特捜部長・沖津旬一郎が名付けたところの「敵」との対決もヒートアップしてきた。本シリーズの売りが機甲兵装同士の迫真のアクションシーンにあるのはいうまでもないが、警察小説としてもリアルで手の込んだ作りになっているのだ。
特に横浜・中華街のレストランで香港の多国籍企業フォン・コーポレーションの情報企画室室長を始め五人が暗殺されるところから始まる今回は、経済産業省とフォン・コーポレーションが合同で進めるクイアコン(新世代量子情報通信ネットワーク開発プロジェクト)をめぐる疑獄事件の合同捜査へと進み、これまで以上にミステリー色も強い。機甲兵装のアクションが売りといったけれども、今回著者はあえてそれを封印したようで、集団捜査劇を軸に社会派推理、国際スパイ小説、さらには本格謎解きミステリー等、多彩な趣向で読ませるのである。
もちろん冒頭の暗殺事件についても捜査が進み、やがて被害者にカトリックの護符が送られていたことが判明、クイアコン関係者を狙った連続殺人であることがわかってくる。フォン・コーポレーションCEOの第一秘書にして黒社会の大幹部・關剣平(クワンジェンピン)も来日して何かを探っているようだったが、捜査陣はついにそれが香港で「狼眼殺手」と呼ばれる謎の暗殺者であることを突き止める。
その狼眼殺手との対決、疑獄事件の顛末、そして“敵”の摘発。機甲兵装アクション抜きでもたっぷり読ませる。本書からシリーズを読み始めても遅くない。日本の警察小説、冒険小説の最前線を往く傑作である。