緻密な作り込みと深い問い ファンタジー界に注目の新鋭

レビュー

6
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宝石鳥

『宝石鳥』

著者
鴇澤亜妃子 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488027759
発売日
2017/08/31
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

緻密な作り込みと深い問い ファンタジー界に注目の新鋭

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 冒頭、船で島へ向かっている登場人物が夢のなかで聴く〈青銅と竹でできた百の楽器〉の音は、おそらくインドネシアのガムランがもとになっているのだろう。だが、宝石鳥は彼の地の神鳥ガルーダとは全く違う。日本書紀でヤマトタケルの魂を運んだ白鳥のようでもあり、エジプト神話で死者を蘇らせるイシスのようでもある。第二回創元ファンタジイ新人賞受賞作『宝石鳥』は、不思議な力を持つ鳥の伝説に翻弄される人々の物語。著者が現役書店員であることでも注目を集めている。

 作曲家の真狩は、愛する妻を飛行機事故で喪い、自宅に引きこもっていた。ある日、彼は死者の魂をこの世に戻す儀式の話を思い出し、シリーシャ島を目指す。一方、美術館で絵画を研究するシオラは、シリーシャ島の秘祭を調査中の婚約者を探すために現地へ飛ぶ。彼は海に沈んだ車を残して消息を絶った。折しも島では新たに選ばれた女王の即位の儀式が行われる予定だった。

 シオラの婚約者はなぜ消えたのか。正体不明の新女王は何者なのか。謎を解く鍵は、百年前に描かれた一枚の肖像画に隠されている。絵を制作した画家の視点で書かれる第二章「宝石鳥ト云ウ名ノ女」がいい。若くして才能を認められたもののスランプに陥っていた画家は、宝石鳥という名の伯爵夫人の絵を描くことになる。ところが宝石鳥の特徴はとらえているはずなのに、描いても描いてもモデルとは似ても似つかない絵になってしまう。画家は試行錯誤するうちに、彼女の姿をありのまま写すことに成功するが……。

 宝石鳥の絵がなかなか像を結ばなかったのは、彼女が恋のために我が身を二つに分けたからだった。半身を失った女性が生きているありえない世界を、ありえるように感じられる筆致で描く。架空の歴史や文化を緻密に作り込みつつ、喪失の悲しみを抱えた人にとって芸術はどんな意味があるのかということも問いかける一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2017年10月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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