幻の黒船カレーを追え――“日本の国民食”ルーツの旅

レビュー

8
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幻の黒船カレーを追え

『幻の黒船カレーを追え』

著者
水野 仁輔 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093885690
発売日
2017/08/08
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

日本の国民食「カレー」はいかにして浸透したのか

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 日本中カレーを置いていない店はなく、雑誌は毎夏カレーを特集し、カレーで検索すればウンチクを傾けた情報がぞろりと出てくる。このカレーの発祥地がインドなのはわかるとして、日本にはどこ経由で入ってきたのだろうか。

 インドを植民地にしていたイギリスにより、明治維新の頃に文明開化の波に乗ってきた。そのカレーはサラサラしたインド風ではなく、小麦粉入りのルーのなかに肉や野菜がはいっている、いま私たちが「カレーライス」と呼んでいるものだった。ということはイギリス人がこのようにアレンジしたのか。むこうではいまもこうしたカレーが作られているのか。それはどんなレシピなのか。市井のカレー研究家が三ヶ月の旅に出た。

 ロンドンでは図書館で資料を調べ、カレーを食べ歩く。インドカレーの洗練ヴァージョンは大変な人気なのだが、日本にあるカレーはどこでも出していない。パブのメニューにもないし、家庭でも作らない。どうやらイギリスで絶えたものが、日本において深みを獲得し、独自の食文化になったらしいとわかってくる。

 そこまで読んだとき、第二章に一度目とはちがう感慨が加わった。黒船が来航した五つの港町でカレーの名人シェフに取材したものだが、私たちが親しんでいるカレーライスが、彼らのこだわりと努力なくしては誕生しなかったことが、切々と伝わってきたのである。

 ならば、イギリスは料理を右から左に受け渡しただけなのか。いや、一つ大きな貢献がある。カレー粉を考案したことだ。インドではスパイスを家庭で調合して石臼で挽くのが伝統だが、それでは厄介というので、調合済みのスパイスを粉末にして売り出した。一振りすればカレー味になる魔法のスパイスがこうして世界に広まる。日本にも製造するメーカーが現れ、カレー粉とそれを使ったカレー料理が、どこの国にもない大きな花を咲かせたのだった。

新潮社 週刊新潮
2017年10月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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