<東北の本棚>明治維新の偽装を暴く

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薩長史観の正体

『薩長史観の正体』

著者
武田 鏡村 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784492062043
発売日
2017/09/08
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>明治維新の偽装を暴く

[レビュアー] 河北新報

 薩摩(鹿児島県)、長州(山口県)藩による明治維新で日本は近代化への道が開かれたと、教科書は教えている。が、果たしてそうなのか。実際は謀略、殺戮(さつりく)によって行われた暴力革命だった。「勝てば官軍」。勝者の都合よく歴史を偽装しただけである。薩長史観の「危うさ」を説く。
 幕末の志士を指導した吉田松陰だが、思い込みの激しい人物だった。独断で米国と通商条約を結んだ幕府に激怒。朝廷への弾圧を指揮していると見た老中、間部詮勝の暗殺を企て、高杉晋作ら門弟は血盟書に応じた。その体質がしみ込み、維新の内乱で外国人殺害や「天誅(てんちゅう)」の名の下に政敵の暗殺を繰り返した。明治の元勲となった弟子たちは師匠の松陰を英雄に仕立てることで、血にまみれた自分たちの行動を隠蔽(いんぺい)した。
 京都御所に火を放ち、天皇を拉致しようとした尊皇攘夷(じょうい)派の計画を事前に察知、新選組が乗り込んだのが池田屋事件だが、維新後、薩長史観ではこのことに口をつぐんでいる。「天皇を拉致しようとしたことが尊皇なのだろうか」と、著者は疑問を投げ掛ける。
 薩長両藩は幕末、英、仏の艦隊と砲撃を交え敗北、西欧の軍事力をまざまざと見せつけられる。政権を奪うと、それまでの攘夷思想を開国へと180度転換。では倒幕の理由にした攘夷思想とは一体何だったのか。維新後、何の説明もない。その攘夷思想という排外主義は後の軍国主義教育の中に生き続け、太平洋戦争を招く一因ともなった。大陸への侵略戦争を正当化する薩長史観は「平成の現在までも続いている」と指摘する。来年は戊辰戦争150年。
 著者は1947年新潟市生まれ。東京都在住。歴史作家。浄土真宗の僧籍も持つ。
 東洋経済新報社03(5605)7021=1620円。

河北新報
2017年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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