我々、若い女は常におじさんに観察され品評されてきた――

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おじさんメモリアル

『おじさんメモリアル』

著者
鈴木 涼美 [著]
出版社
扶桑社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784594078034
発売日
2017/08/09
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

おじさんたちを語る向こう側からの目

[レビュアー] 西田藍(アイドル/ライター)

 東大院卒の元日経記者、AV女優の過去が話題になった。そんな異色の経歴を持つ著者や彼女の周りの女性たちが出会った印象深いおじさんたち。水商売、性風俗店の客、元カレから父親までを語ったのが本書。独特な仕事をしないと出会わないような、個性豊かな彼ら。哀愁まで感じる。

 嘘だ。私は夜職の経験はないが、似たおじさんには出会ってきた。家と学校を往復するだけでも寄ってくるし、時給800円のアルバイトでも「彼ら」は当然の権利のように手を握ってきた。それくらいでは彼らは罰されることはなかった。

 そんな彼らについて語るとき、「おじさんにもいろいろあるよね」と言わなければいけないような気がするのも不愉快だ。哀愁? それはおじさん語りのエクスキューズ。確かに、水商売、性風俗、その他あらゆる売春現場でのエピソードは強烈で、面白かった。しかし、彼らが彼らであるエッセンスは、共通のように思える。そもそも、著者に対する異色との評価も一方的で(いや確かに珍しくはあろうが)、彼女の経歴の向こう側、買春側は、いつも見えない。

 著者は軽妙にその向こう側について語る。我々、若い女(若くない女も全て若い女だったのだ)は常におじさんに観察され品評されてきた。そして、おじさんから不当に何かを奪っていると責められてきた。我々は奪う側だったのか?

 私は幼少期、90年代後半にメディアが盛んに煽っていた「女子高生ブーム」をそのまま信じていた。私もあのときのように論評される年齢になり、純粋無垢ながら男を手玉に取る狡猾なオンナという幻想を貼り付けられる苦痛を知り、あのオネエサンたちは大人が作り上げた都合のいい存在だったと知ったのだった。著者の女子高生時代はあのオネエサンたちと重なりはするが、今では違うとはっきりわかる。

 我々は見ている。彼らが我々を見ているように、我々は彼らを見てきた。

新潮社 週刊新潮
2017年10月12日神無月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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